2016年10月12日水曜日

ズーランダー No.2

ズーランダー No.2
Zoolander 2
2016年 アメリカ 102分
監督:ベン・スティラー

2001年の一作目の結末から15年後、ローマでジャスティン・ビーバーが殺害され、暗殺されたロック歌手の最後のメッセージにインタポールが共通点を読み取っていたころ、数々の苦難にあってファッション業界から引退してニュージャージーの極北で隠遁生活を送るデレク・ズーランダーの前にビリー・ゼインがメッセージを持って現われ、顔に傷を負ってファッション業界から引退してマリブにある広大無辺の砂漠地帯で相変わらずの乱交生活を続け、キーファー・サザーランドをはじめとする乱交仲間から突然の妊娠を告げられてとまどうハンセルの前にもビリー・ゼインがメッセージを持って現われ、メッセージに誘われたデレク・ズーランダーとハンセルはローマに旅立ち、ローマの産廃処理場でおこなわれた最新式のファッションショーに出演して時代遅れという屈辱を受けるが、インタポールでファッション犯罪担当を担当するヴァレンティーナから捜査協力の要請を受けてデレク・ズーランダーはロック歌手たちが残したメッセージを解読、その後のばかげた展開によって聖書に語られるエデンの園にはアダムとイブのほかに三人目のスティーブンがいたこと、そしてそのスティーブンこそが永遠の美の源泉であり、ファッションモデルの始祖であることが唐突に明かされ、その直系の子孫であるいわゆる「選ばれし者」の心臓を食らえば永遠の若さを得ることができるということになり、その「選ばれし者」を狙っているのは誰か、というところでEU管轄下にある凶悪ファッション犯罪専門の重警備刑務所から一作目の悪役ムガトゥが脱獄する。刑務所の看守はすべて元ファッションモデルなので、だますのは簡単なのである。 
デレク・ズーランダーが製作・監督・脚本兼のベン・スティーラー、ハンセルがオーウェン・ウィルソン、ムガトゥがウィル・フェレル、ムガトゥの秘書カティンカ・インガボゴビナナナがミラ・ジョヴォヴィッチ、インタポールのヴァレンティーナがペネロペ・クルス、ユニセックスの奇怪なファッションモデルがベネディクト・カンバーバッチ、刑務所で一瞬だけ登場する囚人がジョン・マルコヴィッチ、本人役でジャスティン・ビーバー、スティング、ビリー・ゼイン、キーファー・サザーランドなどが豪華に登場し、クライマックスの邪教の儀式にはトミー・ヒルフィガー、マーク・ジェイコブズ、アナ・ウィンターなどが本人役で登場して、みんなでおばかなことを楽しそうにやっている。くだらないと学芸会だと言えばそれまでだが、それをまとめるベン・スティーラーのセンスは悪くない。 
Tetsuya Sato

2016年10月11日火曜日

ジェイソン・ボーン

ジェイソン・ボーン
Jason Bourne
2016年 イギリス/中国/アメリカ 123分
監督:ポール・グリーングラス

記憶を取り戻したジェイソン・ボーンがギリシア、アルバニア国境付近でストリートファイトをしていたころ、レイキャヴィクではニッキー・パーソンズが冷戦時代の古いPCを使ってCIAのネットワークに侵入、トレッド・ストーンだのトレッド・ストーンのアップグレード版のブラックブライアーだの最新プログラムのアイアンハンドだののファイルをダウンロードし、この侵入を検知したCIAのセキュリティ担当ヘザー・リーは侵入者の正体を特定して行動を監視、ニッキー・パーソンズがアテネでジェイソン・ボーンと接触するとCIAは抹殺チームを派遣するがあえなく全滅、ベルリンでも失敗し、ロンドンでも失敗し、いわば失敗だの不手際だのをもっぱらの身上とするこの組織の親玉ロバート・デューイはさらなる悪事をたくらんでSNS業界の大物アーロン・カルーアを脅迫、逃げ場を失ったアーロン・カルーアは自身とCIAとの癒着を暴露する決意をしてコンベンションが開かれるラスヴェガスへ飛び、パネルの共演者でもあるロバート・デューイとヘザー・リーもラスヴェガスへ飛び、唐突に父の死の真相を知ったジェイソン・ボーンもラスヴェガスへ飛ぶ。 
ジェイソン・ボーンがマット・デイモン、表情を殺しているとクール・ビューティに見えるけど一瞬でも表情が出ると意外と幼いヘザー・リーがアリシア・スタイルズ、CIA長官がいきなり出てきてただ悪いだけのトミー・リー・ジョーンズ、その直属の暗殺者がヴァンサン・カッセル。ヴァンサン・カッセルの老け方にちょっと驚いた。例によってCIAは層が薄くて、セキュリティ担当のヘザー・リーがなんでいきなり現場指揮という具合にプロトコルもよくわからないが、失敗だの不手際だのを身上としているので気にしてもしようがないのだと思う。とりあえず続編ということで出てきたけれど、ジェイソン・ボーンも何をすればいいのかわからないという感じで、全体としての冴えはあまりない。とはいえ、冒頭に近いアテネのデモ/暴動のシーンは一種異様な迫力があり、これはさすがにグリーングラスだと感心した。終盤のラスヴェガスのアクションはちょっとやりすぎかもしれないし、SWATの装甲車がいくらなんでも頑丈すぎ。 
Tetsuya Sato

2016年10月5日水曜日

アメリカン・レポーター

アメリカン・レポーター
Whiskey Tango Foxtrot
2016年 アメリカ 120分
監督:グレン・フィカーラ

テレビ局でキャスター用の原稿書きの仕事をしていた42歳未婚のキム・ベイカーは2003年、イラク戦争の勃発でアフガニスタン駐在員が手薄になったという理由から現地レポーターに転身することになり、対空ミサイルを回避しながら螺旋状に降下する旅客機に悲鳴を上げ、カーブルの悪臭と大気汚染に鼻をやられ、鉄製の門で守られた支局の与えられた自室の窓から交合する犬を見下ろし、シャワー道具を抱えてシャワーを探し、ニューヨークで6点の女でもアフガニスタンでは9.5点になると言われ、海兵隊を訪問してオレンジ色のバッグに難癖をつけられ、バッグにカムフラージュテープを貼って海兵隊のパトロールに同行し、タリバーンとの交戦でカメラを構えて前に飛び出し、そのおかげで海兵隊の大佐からウーラーと声をかけられ、3か月で帰国するはずが年が変わっても帰国できず、そのまま1年がたち、2年がたち、アフガン人の同僚からアドレナリン中毒に陥っていると指摘され、アフガニスタン政府高官と顔がつながり、スコットランド人の戦場カメラマンと恋に落ち、自室の窓から交合する犬を見下ろし、現実に立ち返って成長するためにはこの幻想の国から抜け出す必要があると感じ始める。 
キム・ベイカーがティナ・フェイ、海兵隊の指揮官がビリー・ボブ・ソーントン、スコットランド人カメラマンがマーティン・フリーマン。モロッコとニューメキシコでロケされたアフガニスタンはいかにもそれらしい仕上がりで、生活の細部まで目端が利いた撮影のせいでおもわず現地ロケかと疑った。ティナ・フェイの魅力で持っている部分が大きな映画であることに違いはないが、誠実な語り口が好ましい。原題の"Whiskey Tango Foxtrot"は"What the fxxx"を意味しているらしい。まあ、そんな感じ。海兵隊の偵察シーンで一瞬だがオスプレイが登場する。機内の様子が興味深い。 
Tetsuya Sato

2016年10月3日月曜日

完全なるチェックメイト

完全なるチェックメイト
Pawn Sacrifice
2014年 アメリカ/カナダ 115分
監督:エドワード・ズウィック

ボビー・フィッシャーの前半生をチェスの才能を見せ始めた50年代初頭から1972年、レイキャヴィクの世界大会でボリス・スパスキーを破るまで。トビー・マグワイアが心に問題を抱えた主人公を熱演し、セコンド役のピーター・サースガードがいい感じで、ボリス・スパスキーを演じたリーヴ・シュレイバーがまたよろしい。エドワード・ズウィックの仕事はさすがという仕上がりで、50年代から70年代まで、いわゆる冷戦期における色彩表現の変遷をたくみに引用しながら時代色を演出し、主人公が抱えた歪みから主人公を囲む世界の歪みまで、広い視野で描き込んでいる。クライマックスの世界大会におけるチェスシーンは破格の緊張感で、チェスを扱った映画でこのレベルは類がないような気がするが、とはいえ、これはチェスというよりはポーカーであろう。 

Tetsuya Sato