2016年5月22日日曜日

トポス(184) ギュンは決意する。

(184)
「わたしは科学者だ」とギュンはいつも話していた。「エイリアン・テクノロジーに関する第一人者であり、科学の力で奇跡を約束できる世界で唯一の人間だ」とギュンはいつも話していた。「だからわたしは、わたしを専門分野で使うべきだと訴えた。収容所当局に何度も請願した。だが収容所当局は拒絶した。どうやらわたしの調書には、わたしを専門分野で使わないこと、という指示が強調を意味する二重の下線付きで入っているらしい。作業手配係は薄笑いを浮かべながら、わたしを粘土採掘場に送り込んだ。それも作業班長としてではなく、一般作業班員として送り込んだ。地球を二度までも危機から救い、町を反逆者の手から救い、邪悪な黒い力に言わば引導を渡したこのわたしに、スコップで泥を掘れと命じたのだ。スーパーグラスがあれば〇・一秒もかからない仕事を、朝の四時から夜の十時までさせるのだ。スコップで泥を掘り出して、泥の穴の底からトロッコを人力で押し上げているのに、休憩は一切与えずに、朝と晩に魚の目玉が入ったスープを出してくるのだ。魚の目玉が浮いた塩水なのに、それが志願労働者用の補充食だと言い張るのだ。志願労働者は本来なら手弁当持参なのだから、それで感謝しろと言い張るのだ。いったいわたしはいつ志願したのか。わたしは強制されているのだ。疲れたからだを引きずってバラックに戻り、点呼を終えてようやく板寝床に横たわっても、寝床にはシラミまみれの藁が敷いてあるだけだ。エルフが拠出したという毛布はいったいどこへ消えたのか。シラミに食われながら眠りに落ちて、落ちた瞬間に朝を迎えて起きだすのだ。ここでは理性を殺している。ここでは人間を滅ぼしている。だがわたしを滅ぼすことはできないだろう。わたしは再び魔法玉を作り始めた。見つからないようにこっそりと、魔法玉を作り始めた。魔法玉の材料は小鬼やエルフやエイリアンとは限らない。人間からでも作れるのだ。死体からでも作れるのだ。死体ならいくらでもあるから、いくらでも魔法玉を作れるのだ」

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