2016年5月16日月曜日

トポス(178) オークの軍勢が準備を進める。

(178)
「再集結を完了した時点で」とオークの指揮官は言った。「こちらの兵力は歩兵三個大隊と機関銃一個中隊に達していたが、砲兵隊を欠いていた。砲兵による準備攻撃ができない状況では突撃は不可能だった。そこで対抗壕を構築して手榴弾の投擲戦に持ち込み、まず敵の前哨を排除する必要があった。だが、我が軍の最大の問題は砲術支援を欠いていたことではなく、総司令官を欠いていたことだった。下級将校の連携でどうにか作戦を進めてはいたが、作戦全体を統括する司令官がいなかった。我々は邪悪な黒い力にその役割を期待したが、邪悪な黒い力は拒絶した。邪悪な黒い力は影響力を行使するだけで、個別の作戦に対しては責任は負えないということだった。我々は失望しつつ、それでも任務の遂行に邁進した」
「わたし、邪悪な黒い力は言う」と邪悪な黒い力が言った。「オークたちはわたしに総司令官の役割を求めたが、わたしは拒絶した。わたし、邪悪な黒い力は影響力を行使するのみで個別の作戦には責任を負わない。責任を負うべき者がいたとすれば、それはギュンだった。わたしはいたずらに大将軍の地位を与えたわけではない。地位には責任がともなうのだ。しかし、責任を負うべきギュンはどこにいたのか。わたし、邪悪な黒い力が与えた影響力を自分の影響力だと勘違いして、わたしを手ひどく裏切ったばかりか愚行を重ねて自滅していた。オーク軍の敗退について、もし誰かが責任を負うとすれば、それはわたし、邪悪な黒い力ではない。裏切り者であるギュンにほかならない」

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.