2016年4月26日火曜日

トポス(166) ピュンは仲間を呼び集める。

(166)
「俺は所長の命令で脱走したアンドロイドを追っていた」とピュンは言った。「で、これが思ってたよりも面倒くさい仕事だった。なにしろさ、そこら中で戦闘をやってたんだ。こっちで革命派とオークが戦ってると思えばあっちじゃオークがロボットと戦ってた。町の中心部では革命派とオークが陣地の取り合いをやっていたし、政府軍はそこへ砲撃や爆撃をして民間人を吹っ飛ばしていた。はっきり言って道を歩くだけでも命がけだった。まあ、俺はもう死んでたわけだけど。で、とにかくそういう有様だったけど聞き込みを続けて、アンドロイドが女を買っては片っ端から殺してるってことがわかってきた。殺してはからだのどこかを切り取って、それを新聞社に送ってたんだ。新聞社も郵便局も革命派の拠点になっていたけど、ちゃんと機能していたよ。ただ、やたらと頭が固かったんで少し噛まなきゃならなかった。俺のほうの飢餓感も解決できるし、仲間になれば口も軽くなるから一石二鳥ってわけなのさ。新聞社から郵便局の線をたどって、仲間を増やしながら少しずつ場所を絞り込んで、とうとう居場所を突きとめた。小汚いアパートの一室で、そいつはすっかり居直っていた。邪悪な黒い力に吹き込まれたあの疑問、自分はどこから来てどこへ行くのか、あと何年生きるのか、それが人間の普遍的な問いかけだということに気がついて、アンドロイドという正体を忘れてその瞬間を楽しむことにしたんだとさ。待つことはない、って奴は言った。我慢することもない、って奴は言った。それから嬉しそうに洗面台の鏡を指差した。そこには赤い口紅で、誰か俺をとめてくれ、って書いてあった。で、俺がどうしたかって? 奴に電話を借りて、山にいる仲間を呼んだのさ」

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.