2016年4月17日日曜日

トポス(158) オークの軍団が町に侵入する。

(158)
 町のはずれで火の手が上がった。邪悪な黒い力が邪悪な黒い力で生み出したオークの軍団が町に攻め込んでいた。家々に火を放ち、逃げ惑う市民を殺していた。伝令が息急き切って駆け込んできて、戦況をクロエに報告した。すでに三つの区画が陥落し、間もなくもう二区画が落ちるという。そうなれば、オークの軍団は町の三分の一を占拠したことになる。王宮への進撃路を確保して、王手をかけてくることになる。クロエはオークの占領地域への砲撃を命じた。
「しかし、まだ一般市民が」
 参謀たちは反対した。
「選択の余地はありません」
 蒼ざめた顔の参謀が野戦電話のハンドルをまわした。砲兵隊の将校たちが地図を指差して座標を割り出し、命令を与えた。砲兵隊が砲撃を始めた。直撃を受けた家々が爆風とともに瓦礫を飛ばし、家財の破片を吐き出した。町は火の海になり、オークが吹っ飛び、逃げ惑う市民が吹っ飛んだ。邪悪な黒い力の黒い影が燃え盛る町を包み込んだ。影は触手のように這いまわって戦うオークに勇気を与え、逃げ惑う市民の心を闇で浸した。略奪が始まり、暴行が始まり、魂の暗黒面に落ちた多くの者が砲撃の中で悪事に耽り、悪を悪で染めることで邪悪な黒い力に喜びを与えた。
 電話が鳴り、クロエが取った。
「あなたに」
 クロエが受話器を差し出した。
「誰から?」
 ネロエが受話器を耳にあてた。
 邪悪な黒い力の哄笑が響いた。

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