2016年4月11日月曜日

トポス(154) ギュンは再び復讐を求める。

(154)
「わたしは科学的に思考する」ギュンはいつも話していた。「科学的な視点から対象を総合的に観察し、十分なデータを集めて合理的に判断する。わたしは科学者であり、科学者であることを誇っている。わたしはわたしである前に、まず科学者であると言ってもいいくらいだ。生まれる前から科学者であると言ってもいいくらいだ」とギュンはいつも話していた。「だからわたしはあの集会でヒュンの姿を目撃したとき、困惑した。羽根飾りがついた帽子をかぶり、剣を抜いて叫ぶヒュンの姿は、わたしには科学への挑戦に見えた。合理的な精神に対する悪意あるいたずらに見えた。ヒュンは死んだはずだった。いや、はずだったなどというものではない。わたし自身の手で心臓をえぐり出したのだ。わたしがあの世に送ったのだ。いや、もちろんあの世というのは言葉の綾に過ぎないが、そのヒュンがわたしの目の前で羽根飾りがついた帽子をかぶって、剣を抜いて叫んでいた。そして学生たちの拍手を浴びていた。そう、拍手を浴びていたのだ」とギュンはいつも話していた。「もう一度、殺さなければならなかった。最初に殺したときにはヒュンは単なる裏切り者、死すべき裏切り者に過ぎなかったが、再び現われたヒュンは科学の敵だった。だからわたしは、ヒュンをもう一度殺さなければならなかった。わたしは機会をうかがった。その場で変身してヒュンを踏み潰すこともできたのだが、それでは無用の犠牲が増えるだけだ。もちろん科学のための犠牲であり、科学のための犠牲ならば、いつでも、どれほどの数であってもわたしは受け入れる覚悟ができていた。だがわたしは変身しなかった。代わりにヒュンのあとをつけた。ヒュンは拍手を浴びていたのだ」とギュンはいつも話していた。「拍手を浴びているヒュンを殺せば、ヒュンは英雄として記憶されることになるだろう。科学の敵が英雄として記憶されることなど、わたしには許容できなかった。みじめで孤独で、喝采から見放された死が、ヒュンにはふさわしい。適切な方法を見つけなければならなかった。わたしは答えを探しながら、ヒュンを追って夜の町へ入っていった」

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