2016年4月7日木曜日

トポス(150) 邪悪な黒い力が質問に答える。

(150)
 取調官は暗緑色の制服の胸を軽くはたくと机に向かって腰を下ろした。たばこに火をつけて最初の一服をゆっくりと吐き出し、それから卓上ランプに手を伸ばすと白熱球の強い光を前に投げた。机のすぐ向こうに壁の割れ目が置かれていた。割れ目から漂う存在の気配に、取調官はわずかながら畏怖を覚えた。見た目には壁の割れ目でしかなかったが、そこには間違いなく何かがいた。取調官は唇を舐め、それから割れ目に話しかけた。
「あなたの正体はすでに暴かれています」
「わたし、邪悪な黒い力は言う」壁の割れ目から声が響いた。「わたしは邪悪な黒い力である。正体を偽ったことは一度もない」
「ではお互いの時間を節約しましょう。あなたは悪徳センターを組織し、悪徳分子を指揮して国家の転覆を計画しましたね?」
「わたし、邪悪な黒い力は言う。わたしは起訴されているのか?」
「あなたは悪徳センター事件の主犯として国家反逆罪を始めとする複数の罪状で起訴されている」
「わたし、邪悪な黒い力は言う。わたしは地上における悪の根源であり、また悪の本質である」
「では、罪状を認めるのですね?」
「わたし、邪悪な黒い力は言う。訴状を見ていないのでコメントできない」
「あなたはわたしの時間を無駄にしている。あなたと一緒に逮捕された悪徳分子たちは、あなたが主犯だとすでに告白している。あなたも認めなければならない。認めれば、この審理はこの場ですぐに終わるのです」
「わたし、邪悪な黒い力は言う。これは取り調べではなく、審理なのか?」
「野戦軍法会議の特別命令により、本件に関しては特別審理が適用されている。したがってわたしは取調官のほか、検事及び裁判官を兼務している」
「わたし、邪悪な黒い力は言う。一般的な観点からすると、その特別命令は法的根拠が疑わしい。あなたは根拠を説明できるのか?」
「あなたには関係のないことだ」
「わたし、邪悪な黒い力は言う。特別審理が合法性を備えていないのであれば、あなたは正義をおこなっていないということになる。しかし、悪を裁くことができるのは善のみである。あなたにはわたしを裁く資格がない」
「わたしにはあなたを裁く意図はない。事件の決着を求めているだけだ」
「それならば」と邪悪な黒い力が言った。「わたし、邪悪な黒い力は言う。あなたは最初からそう言うべきであった。あなたが背負っているのは善ではなく、官僚的な手続きに過ぎない。しかもその手続きの実施にあたって、あなたは合法性は求められていない。そこでわたし、邪悪な黒い力はあなたに無限の悪の力を与えよう。あなたは無限の悪の力によって、巨大な陰謀を暴くことになるであろう」
「わたしは、それでどうすればよいので?」
「わたし、邪悪な黒い力は言う。電話帳を持ってくるのだ。そこにあるすべての名前を書き留めれば、わたしはすべての名前を悪徳センターの悪徳分子であると認めるであろう。またあなたは想像力を可能な限り働かせて、目にした者が例外なく恐怖を覚えるような供述調書を書き上げ、わたしに代わってわたしの名前で署名するのだ。そして調書に上がったすべての名前に死刑を宣告すれば、わたしはあなたに上級大隊指揮官の称号を授けるであろう」

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