2016年4月6日水曜日

トポス(149) 陰謀が暴かれる。

(149)
 その日の早朝、特別編成の貨物列車が貨物駅に到着した。護衛の兵士が見守る中で、特別な荷物はクレーンで吊り上げられて、トラックの荷台に移された。間もなく車列が動き出した。装甲車を先頭にしたトラックの列が物々しさで目を引きながら町を走り、古い監獄の門をくぐって中に消えた。それからいくらもしないうちに何台もの護送車が猛スピードでやって来て、次々と監獄の門をくぐっていった。護送車の出入りは一日中続いた。午後になると顔に不安を浮かべた人々が差し入れの包みを手に集まってきて、面会受付窓口に列を作った。いつまで待っても窓口は閉ざされたままだった。夜になっても人々は包みを抱えて待ち続けた。
 翌日の朝、町中に据え付けられた公共放送のスピーカーが大音量で叫び始めた。国家の安全保障を脅かす非常事態が起こっていた。邪悪な黒い力に与する悪徳分子が国家を乗っ取ろうとたくらんでいた。自由で平等な国家を覆して、悪の帝国を打ち立てようとたくらんでいた。だが幸いにも、と無数のスピーカーがいっせいに叫んだ。陰謀は暴かれた。関係者数千人が逮捕された。しかし、まだ安心してはならない。悪徳分子はまだどこかにひそんでいる。顔には心地よい笑みを浮かべ、善良な市民を巧妙に装いながら、心を悪徳に浸してあなた方から平和を奪おうとたくらんでいる。いまこそ国民の団結を示すときだ、とスピーカーは叫んだ。同僚を疑え、隣人を疑え、とスピーカーは叫んだ。家族を疑い、自分を疑い、政府批判を報告せよ。

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