2016年4月5日火曜日

トポス(148) ピュンは待機する。

(148)
「進撃するつもりだったら」とピュンは言った。「俺たちはいつでも進撃できたんだ。でも所長が反対した。時機じゃないって所長は言った。政局を見極めるべきだって所長は言った。ゾンビってのはふつう、政局を見たりしないんだけどな。だから俺たちは山に隠れて時機を待った。食い物に困ることはなかったよ。村があったし、圧政を逃れてうろうろしている連中がたくさんいたからな。所長は情報をいろいろ集めてた。ヒュンの野郎はどうもあいかわらずだったみたいだけど、ショットガンを持ってるあのやばい女はさらにやばいことになっていた。秘密警察と軍隊をしたがえて、好き放題にしていたんだ。杖を持ってたあの変な小僧は、なんでだか知らないけど、首をくくって死んだそうだ。自殺だって聞いたけど、自殺するタイプだとは思わなかったよ。所長のことは、俺、実はけっこう見直した。待ってるあいだにロボットたちを改造して、人間そっくりに作り変えたんだ。まあ、そっくりって言っても限度があるんだけど、でもかなりよくできていた。中には本当に見分けのつかない奴もいた。所長はそういう奴らをスパイにして、町に潜入させたんだ。人間のふりをして、政府や軍隊にもぐって極秘情報を送ってきた。秘密警察の取調官になりすました奴もいる。もちろん反政府組織にも潜入した。工場で工員を扇動して、ストライキ委員会を組織してる奴が実はロボットで、しかもそのロボットの親玉は人類抹殺をたくらんでたんだ。これって、ちょっと笑えるよな」

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