2016年3月30日水曜日

トポス(143) ギュンは狼狽する。

(143)
 ギュンは巨大な壁の前に立って、うろたえる心を抑えながら割れ目があった場所を見つめていた。
「わたしは超人である前にまず科学者だ」とギュンはいつも話していた。「だから常に理性的に観察し、論理的に判断する。わたしは冷静に観察した。割れ目は真新しい煉瓦を使って埋められていた。煉瓦の上には漆喰が塗りつけてあったが、塗り方にややむらがあり、しかもまだ十分に乾いていなかった。わたしは慎重に漆喰を剥がして、そこで新たな事実を発見した。割れ目はたしかに消滅していたが、補修工事でただ埋められたというわけではなかったのだ。割れ目があった場所は、言わば工学的な正確さで四角く切り取られていた。壁から切り取られて、何者かによって持ち去られていた。わたしはさらに調査を続けた。そして壁の周辺で次々と、大規模な土木工事の痕跡を発見した。壁に沿って引き延ばされた狭軌鉄道の線路があった。放棄された仮設トイレの周辺には無数の吸い殻が落ちていた。重機を使った痕跡もあった。少し離れた場所には無人となったプレハブの建物があり、そこには工程管理表や給与の支払い記録が残されていた。まだ回収されていない仕出し弁当の容器も見つかった。言うまでもなくわたしは科学者である以上に超人であり、人間的な恐怖はすでにすっかり克服したものと信じていたが」とギュンはいつも話していた。「この光景には慄然たる思いを禁じることができなかった。わたしは理解した。天空を暗雲で覆い尽くし、千年にわたる平和と繁栄を覆し、世界に暗黒の時代をもたらす邪悪な黒い力は、何者かにさらわれたのだ。しかしどこへ? 何の目的で?」

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