2016年3月23日水曜日

トポス(137) 裏切り者が銀貨三十枚の報酬を受け取る。

(137)
 クロエとその秘密警察は爆弾の動きを監視していた。平和を叫んで民心を集めているという点で、爆弾は山羊ヒゲの男よりも危険だった。爆弾は大宇宙の神秘の力への帰依を訴え、たゆみない内省こそが真理に近づく道だと説明した。爆弾は民衆の前で大きく強く光り輝き、邪悪な黒い力の影を薄くした。民衆はたゆまず内省にふけることでネロエの政府の正統性に疑問を抱き、クロエの非情さに気がついた。愛と寛容と、そして和解を求める声が強くなった。違法な逮捕や拷問はただちに中止されなければならなかった。収容所はただちに廃止されなければならなかった。民衆は爆弾の光にうながされて、和解を進める手立てを探した。その手がかりは王にある、と多くの者が考えた。人々は王を探して広場に集まり、居酒屋の奥で、友達のおごりで飲んだくれている王を見つけた。人々は王を囲んで訴えた。するとヒュンは充血した目でまわりに並んだ顔を眺め、いきなりテーブルに飛び乗ると腰の名もない剣を剣を抜いた。
「俺は運命を受け入れている。俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
 人々は王の正統性にも疑問を抱いた。密偵たちはその様子をクロエに伝え、クロエはネロエに国家の危機的状況を報告した。そこへキュンが羊飼いの杖を持って現われて、自分は爆弾の弟子であると告白した。だが、もう耐えられない、とキュンは言った。自分は冒険を求めているのに、とキュンは言った。爆弾は冒険を求めていない、とキュンは言った。大宇宙の神秘の力は自分にまったく微笑んでくれない、とキュンは言った。キュンは秘密の会合の場所を告げ、クロエはその報酬として銀貨三十枚をキュンに与えた。

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