2016年3月14日月曜日

トポス(128) ネロエは会合を呼びかける。

(128)
 問題は魔法玉産業とその密売組織だ、とネロエは考えた。密売組織が各地方で軍閥化して、行政と経済を牛耳っていた。組織の力は強大で、仮に魔法の力が使えたとしても対処が難しい段階に達していた。闇に隠れているのが問題だから、とネロエは思った。光の下に引き出してしまおう、とネロエは決めた。ネロエは密売組織に和解のための会合を呼びかけ、会合に集まったボスたちに政府の保護を約束した。治安維持や産業育成の成果を称賛し、勲章や一代貴族の称号を与えた。組織のボスたちはそろって肩書きを知事に変え、配下の兵隊たちは地方警察に再編された。ネロエは時間をかけて地方組織の官僚を入れ替え、知事の手足を奪って警察組織を味方につけた。そしてある日、密売組織のボスたちが巧妙に隠蔽していた政府転覆の大陰謀が突如として暴かれ、ネロエは驚愕と失望をあらわにしながら大量逮捕の命令を下した。ボスたちは逮捕されて、裁判なしで銃殺された。残っていた幹部たちは秘密裁判で二十五年の刑を受け、収容所に送られてもっとも過酷な仕事をあてがわれた。組織の財産は政府に没収されて一時国庫を潤した。組織自体は国営化され、政府は魔法玉を専売化し、金融と生活物資の流通を支配下に置いた。
「しかしまだ」とネロエは言った。「清浄になったとは言えません。邪悪な黒い力はその不浄で湿った触手をあらゆる場所に伸ばしています。今回の魔法玉センター事件がその事実を明かしています。安心することはできません。警戒しなければなりません。ただ警戒するだけでは足りません。国民全員が邪悪な黒い力の誘惑をはねつける強い意志を備えなければなりません。まさしくそのために、国民全員が鍛え直しを必要としているのです。今後、国民は週末を返上して、国家の要求にこたえるための働きをしなければなりません」

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