2016年3月7日月曜日

トポス(121) 王が帰還する。

(121)
 武装した労農大衆が拳を振り上げ、赤旗を振り、魔女に死を、我々に自由を、と繰り返した。ゼリー状の怪物やペンギンのような怪物や、エルフやオークも一緒になって拳を振り上げ、赤旗を振り、魔女に死を、我々に自由を、と叫んでいた。労農大衆の一人がヒュンに気づいた。一人が気づくとまわりの労農大衆も次々に気づいた。武装した労農大衆がヒュンを囲んだ。王様だ、とつぶやく声が聞こえた。王様が戻ってきた、とつぶやく声が聞こえた。つぶやきはすぐにさざなみになり、さざなみがさらに多くの者を引き寄せた。みすぼらしい姿の老人がヒュンの前に進み出て、王様ばんざいと声を上げると、その場にいた労農大衆も手にした得物を振り上げて、王様ばんざいと声を上げた。ばんざいを連呼する群集をかき分けて、黒革のコートを着た男たちが現われた。
「我々は」と男たちの一人が言った。「国家非常委員会だ。労農大衆政府から与えられた権限により、国家の転覆をたくらんだ容疑でおまえたちを逮捕する。なお、今回は容疑の重大性を鑑みて公開裁判を実施する。弁護人は前へ」
 黒革のコートの腕に弁護人の腕章をつけた男がヒュンと並んだ。
「弁護人は申し立てを」
 非常委員会の一人が言うと、黒いコートの弁護人が力強くうなずいた。
「この者たちが犯した罪は明白かつ重大であり、いかなる罰をもってしても贖うことはできません」
 非常委員会の男が背後にいる仲間を振り返った。
「陪審は評決を実行せよ」
「はい、裁判長」
「では、評決を」
「全員有罪です」
 非常委員会の男が向き直った。
「被告三名を死刑に処す。刑の執行方法は銃殺とし、ただちに執行する」
 非常委員会の男たちがピストルを取り出した。それと同時にキュンが杖を上げて敷石を叩いた。クロエのショットガンが火を噴いた。ヒュンが剣を抜いて斬りかかった。

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