2016年2月18日木曜日

トポス(106) 所長はギュンに死を宣告する。

(106)
「わたしは自分が道具であることを常に誇っていた」と所長は言った。「ただの道具ではない。有能で、理念に対して忠実な道具だ。刑務所の秩序、経費削減、囚人の有効活用、宇宙の平和。いずれも殉じるだけの価値がある崇高な理念だ。たしかに一度は愚かしい復讐心や醜悪な猜疑心の奴隷となったが、認知行動療法の効果によって否定的な思考を克服することに成功した。いま、わたしの心は穏やかさを取り戻し、わたしの全存在は大宇宙の偉大な力に捧げられている。道具は正しい持ち主の手に戻ったのだ。そして正しい持ち主はわたしという道具を宇宙の平和を乱すギュンという名の怪物に向かって振り下ろした。しかし、ギュンは逃亡した。残念ながらわたしの準備は十分ではなかった。わたしは準備を整えながらギュンを探した。狩人たちの鷹の目が、すぐさまギュンの所在を探し出した。谷をはさんだ尾根の上の岩陰に狡猾な羚羊を見つけ出すように、そろいもそろった鷹の目がギュンの居場所を見つけ出した。わたしは狩人たちに出動を命じた。もちろんわたしが先頭に立った。わたしのからだのロボット部分は大宇宙の偉大な力によって改造され、わたしは無敵の存在となっていた。数々の兵器が埋め込まれ、いかなる目標も瞬時に破壊する力を備えていた。狩人たちがギュンを包囲し、わたしはギュンに死を宣告した」

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