2016年2月12日金曜日

トポス(100) ギュンは復讐の機会を作り出す。

(100)
 新たに編成された軍の兵士たちは武器も装備も与えられていなかった。制服も与えられていなかったので徴募されたときのままの格好で、突然降りかかった身の不運を飽くこともなく嘆いていたが、そこへクロエがやって来て全軍に出動を命令した。悲嘆の叫びが次々に上がり、クロエの合図で黒い棍棒を握った督戦隊が前に進んだ。このとき、聞けっと叫ぶ声が上がった。スキンヘッドに黒眼鏡をかけた予言者が徴募兵のあいだに立ち上がり、もう一度聞けっと叫んで杖を振った。
「迫っているぞ」とギュンは言った。「化け物の軍団が迫っている。襲い来れば逃れる手段は一つもない。逃れようと試みれば、背後から命を奪われる。家も土地も奪われて、役場は新たな所有者となった化け物の群れでにぎわうであろう。おまえたちには、もはや戦う道しか残されていない。運命を嘆くな。武器がない、制服がない、靴すらもないと言って嘆くのはやめろ。運命を受け入れ、覚悟を決めて戦いに臨め。勝機はある。しかるべき生け贄を捧げ、神々を味方につけるなら、おまえたちは戦場で勝利を得るであろう。醜悪な怪物どもを滅ぼして、大地の肥やしとするであろう」
 ならば生け贄を、と兵士たちが口々に叫んだ。勝利をもたらす生け贄を、と兵士たちが口々に叫んだ。
「聞けっ」ギュンが叫んだ。「神々はそこにいる、その男をご所望だ。運命を受け入れた者、この国の王であった者、その者を生け贄にご所望だ。その者を捧げれば、神々は輝く勝利をもたらすであろう」
 叫びながら、ギュンはヒュンを指差していた。

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