2016年1月10日日曜日

トポス(72) 所長は復讐を求めている。

(72)
 くくくくく、と所長が笑った。
 所長が歩くと金属の部品が音を立てた。機械油がしたたり落ちた。所長は半分が人間、半分がロボットだった。
 所長は復讐を求めていた。怪物のような姿になったのはヒュンのせいだった。だからヒュンにこの世の地獄を味合わせなければならなかった。親兄弟を皆殺しにして、親戚もはとこの果てまで残らず殺して、爪を一枚ずつ引っこ抜き、指を一本ずつねじ切ってから鼻と耳をそぎ落とし、皮を剥ぎ、肉をえぐり、腕と脚を切り落とし、性器をむしり取って口に突っ込み、最後に目玉をえぐってやろうと考えていた。
 復讐のための仲間も集めていた。所長は谷の底で燃え殻のようなありさまで倒れていたピュンを見つけて仲間にした。重警備の刑務所で自由を奪われていたギュンを見つけて仲間にした。
 三人はそろって復讐の機会をうかがっていた。そしていま、その機会が目の前に転がっていた。ヒュンが手錠をはめられて、目の前に転がっていた。ヒュンが逃げ場のない場所で、手錠をはめられて転がっていた。沼地に建つ監獄の迷宮の入り口に転がっていた。
 くくくくく、と所長が笑った。

Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.