2016年1月7日木曜日

トポス(69) ヒュン、キュンと再会する。

(69)
 ヒュンは街道を南へ進んでいた。進むにつれて邪悪な黒い力の影がますます濃くなっていった。空を覆う雷雲が稲妻を飛ばし、野を渡るつむじ風が牛を飛ばした。路傍では石が肩を寄せて土曜の夜の孤独と日曜の朝の頭痛を歌っていた。やがて小さな村にたどり着いて、そこで一人の老人に出会った。
「不恰好なロボットが、わしらの王様になったそうだ」と老人は言った。「どこからともなく現われて、さっさと王様に収まったそうだ。前の王様もひどかったが」
 稲妻が老人を打ち倒し、ヒュンは南に向かって旅を続けた。次の村では背中が曲がった老婆に出会った。
「不恰好なロボットが、わしらの王様になったそうだ」と老婆は言った。「革命派を捕まえて、棍棒で叩いて、牢屋に送っているそうだ。前の王様もひどかったが」
 つむじ風が老婆を吹き飛ばし、ヒュンは南に向かって旅を続けた。次の村ではしかめっ面の男に出会った。
「不恰好なロボットが、俺たちの王様になったそうだ」と男は言った。「聞いたところではプログラムされたとおりに動いているそうだ。前の王様もひどかったが」
 男は石と一緒に歌い出し、ヒュンは南に向かって旅を続けた。次の村では羊飼いの杖を抱えたキュンに出会った。キュンのまわりにはステータス異常を起こしたヒツジが転がっていた。この杖ではヒツジの番ができない、とキュンは言った。この杖も俺もヒツジの番に向いてない、とキュンは言った。キュンは冒険を求めていた。ヒツジの世話から逃げ出して未知の世界に飛び込んで、思うままに冒険がしたいと考えていた。
「なにしろ俺は若いのだから」とキュンは思った。「何にだってなることができる。英雄にだって、なることができる」
「俺は運命を受け入れている」とヒュンが言った。「俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
「あんたの運命を分けてくれ」とキュンが言った。「俺も世界を救う英雄になる。だから俺も邪悪な黒い力と戦うんだ」

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