2016年1月4日月曜日

トポス(66) ピュンは再び罠を仕掛ける。

(66)
 ピュンはヒュンを追っていた。見たところ、ヒュンはたった一人で旅をしていた。ショットガンを担いだあの不気味な女の姿はない。羊飼いの杖を担いだあの妙な小僧の姿もない。これはチャンスだ、とピュンは思った。
 ピュンは先回りをして、ヒュンの進路に罠を仕掛けた。まず道の上にごちそうを置いた。ヒュンが足をとめてごちそうを食べ始めたら、頭の上に十六トンの鉄の重りを落としてヒュンを仕留めるつもりだった。クレーンで鉄の重りを釣り上げて、重たいレバーを握り締めてヒュンを待った。ヒュンが来た。足をとめずにごちそうの皿をさらっていった。ピュンはあわてて、クレーンのレバーから手を離してヒュンを追った。道に走り出た瞬間に、ピュンの頭に十六トンの鉄の重りがのしかかった。
 仕掛けが複雑すぎた、とピュンは思った。先回りをして、崖にはさまれた隘路に煉瓦を積んで壁を作った。ヒュンが不審に思って足をとめたら、壁を倒してヒュンを仕留めるつもりだった。ピュンは壁に隠れてヒュンを待った。ヒュンの気配が近づいてきた。壁の向こうで足音がとまった。ピュンは壁に肩を当てて、渾身の力をかけて押し始めた。壁が反応した。しかし、誰かが壁を押し返した。ピュンも負けまいと押し返した。踏ん張った足が地面を滑り、気がつくと倒れかかる煉瓦の壁を必死になって支えていた。壁をピュンを押しつぶした。

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