2015年12月8日火曜日

トポス(44) ヒュン、エルフの長老と会う。

(44)
 ヒュンは森を奥へ奥へと進んでいった。エルフは弓に矢をつがえていたのに、ヒュンを打とうとしなかった。殺すことができたはずなのに、ヒュンを殺そうとしなかった。武器を捨てろと言ったのは、捕えるように命令されていたからだ。どうやら誰かが俺に会いたがっているようだ、とヒュンは思った。それにしても誰かとはいったい誰なのか。残った一人を締め上げていれば、それを聞き出すことができたはずだった。名前と居場所を聞き出すことができたはずだった。それなのに、残らず殺してしまったのだ。一人は残しておくべきだったのに、一人残らず殺してしまったのだ。ヒュンは強い怒りをまたしても感じた。怒りのままに拳を握ってキュンの頬に叩きつけた。クロエの頬にも叩きつけた。
「なんだってんだ」キュンが叫んだ。
「このろくでなし」クロエが叫んだ。
「くそったれめが」ヒュンが叫んだ。
 水の音が聞こえてきた。木々のあいだをくぐり抜けると滝が見えた。滝にかぶさるようにして、大きな館がガラスの塔を連ねていた。触ると壊れそうなガラスの螺旋階段がガラスの塔をめぐっていた。
 ヒュンは館の門を叩いた。門に耳を押しつけるとエルフの言葉がかすかに聞こえた。門が開いてエルフが現われ、敵意に満ちた目つきでヒュンを見た。ヒュンは館の奥に案内された。そこにはエルフの長老がいた。
「おまえを探していた」と長老が言った。

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