2015年11月26日木曜日

トポス(35) ヒュン、クロエとともに逃走する。

(35)
 ヒュンとクロエは魔法玉工場の塀を越えた。警備員の姿がどこにもない。倉庫は空で、材料棚は埃をかぶり、小鬼を閉じ込めていたはずの檻はネズミたちの巣になっていた。しつこく垂れ下がるクモの巣をヒュンが剣で切り落とした。
「何があったんだ?」
 クロエが留守番をしていた老人を見つけた。
「知らねえのかい?」老人が言った。「新しい法律ができたんだ。魔法玉は売るのも作るのもご法度だ」
「そいつはまいった」
「でも俺は運がいい」老人が続けた。「みんなクビを切られちまったが、俺はとにかく仕事をもらえた」
「残ってないのか?」
「ちったあ残ってる」老人が笑った。「ちゃんと隠してある。おまえらには見つけられねえ場所に隠してある」
「いくらなんだい?」
「いくら持ってる?」
「俺が聞いてるんだ」
「さては文なしか?」
「俺が聞いてるんだ」
「文なしに用はねえ」
「俺は運命を受け入れている」とヒュンが言った。「俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
 ヒュンが腰の剣を抜いた。クロエがショットガンを老人に向けた。老人が懐に手を差し入れて魔法玉を取り出した。老人が叫んだ。
「使うぞ」
 クロエのショットガンが火を噴いた。老人が倒れた。ヒュンが駆け寄って懐を探り、魔法玉が入った袋を見つけ出した。クロエが工場に火を放った。燃え上がる炎を背に二人は夜の闇に駆け込んでいった。

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