2015年10月29日木曜日

トポス(11) 楽しかったあの日々が、クロエのまぶたによみがえる。

(11)
 父親が死んだとたんに、継母が好き放題にふるまい始めた。継母の連れ子の二人の姉も、母親を真似して好き放題にふるまい始めた。継母はクロエをまるで下女のように扱った。継母はクロエにぼろを着せて、罵りながらこき使った
「クロエ、食事のしたくをするんだよ」
 継母がクロエに命令した。
「クロエ、服のつくろいをするんだよ」
 上の姉がクロエに命令した。
「クロエ、風呂のしたくをするんだよ」
 下の姉もクロエに命令した。
 いつの間にか、食卓からクロエの席がなくなっていた。戸惑うクロエに継母が言った。
「おまえはそこに立って、給仕をおし」
 クロエは自分の部屋から追い出された。
「おまえはね、台所の床で寝るんだよ」
 上の姉が意地悪く笑った。
 クロエは台所の床に座って食事をした。
「おまえにはね、そこがお似合いだよ」
 下の姉が意地悪く笑った。
 継母はクロエに石のようなパンとただの水しか与えなかった。クロエは台所の床に座って涙を流した。
「おなかが空いたわ」
 クロエは継母に隠れて蜂蜜をなめた。
「母さん、クロエが母さんに隠れて蜂蜜をなめたよ」
 上の姉が告げ口をした。
「この泥棒猫」
 継母がクロエの頬を平手で叩いた。
 クロエは継母に隠れてジャムをなめた。
「母さん、クロエが母さんに隠れてジャムをなめたよ」
 下の姉が告げ口をした。
「この泥棒猫」
 継母がクロエの頬を平手で叩いた。
 上の姉が暖炉の灰をクロエに浴びせた。
 下の姉が汚れた水をクロエに浴びせた。
 優しかった父の面影が、クロエのまぶたによみがえった。
 楽しかったあの日々が、クロエのまぶたによみがえった。
「父さん」
 クロエの頬を涙が伝った。
「なぜ、こんなことに?」

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