2015年8月31日月曜日

Plan-B/ 魔女

S7-E25
魔女
 昔むかし、海と空の向こうの国の昼でも暗い森の奥に恐ろしい魔女が住んでいた。魔女は子供を捕まえると生きたまま釜で茹でて脂を取り、その脂をからだに塗って笑いながら空を飛んだ。魔女が近づくと牛の乳が酸っぱくなり、豚の肉に蛆が湧いた。鶏は卵を産まなくなり、羊は皮膚病に冒された。麦は立ち枯れ、頼みの根菜類までが虫に食われて全滅した。怒り狂った人々が鋤や鍬や斧を手にして魔女を滅ぼすために出かけて行ったが、一人残らず冷たい石に変えられた。請願がついに王に届いて王とその軍勢が魔女を滅ぼすために出動したが、全員が冷たい石に変えられた。暗い森は人間の姿を写した石でいっぱいになり、村人は村を捨て、畑を捨てて逃げ出した。打ち捨てられた村の上を魔女が飛んだ。甲高い笑いの声を響かせながら、一直線に飛び越えていった。

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2015年8月30日日曜日

Plan-B/ 孤児

S7-E24
孤児
 昔むかし、海と空の向こうの国に腹を空かせた孤児がいた。冷たい隙間風が吹き抜ける孤児院で、ぼろをまとって空腹を抱えて泣いていたが、実はある貴人の血を受け継いでいて、遠くにある優雅な場所からゆっくりと救いの手が近づいていた。だが空腹を抱えた孤児は待っていることができなかった。だから薄いスープのお代わりを求めて、残忍な院長に殺された。その無残な光景を見て孤児院の孤児たちが立ち上がった。殺された孤児を全員で囲み、怒りの拳を振り上げた。たった一杯のスープのために。彼の死を忘れるな。暴動が始まり、院長の手下は縛り上げられ、院長は簀に巻かれて冬の海に放り込まれた。孤児院は火に包まれ、軍隊が出動し、孤児たちに食料を与えた市民が階段の上から撃ち殺された。弾圧の手が迫る。万事休すか。だがその瞬間、町中の孤児院が赤旗を掲げた。

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2015年8月29日土曜日

Plan-B/ 病気

S7-E23
病気
 昔むかし、海と空の向こうの国に大酒飲みの王様がいた。大酒飲みの王様はいつも朝から飲み始めた。昼のあいだも飲み続けて、夜も寝るまで飲み続けた。病気になっても飲み続けた。病気を治すために国中の医者が呼ばれたが、病気を治す方法が見つからない。王様は国一番の賢者を招いて意見を求めた。そして賢者の進言にしたがってお触れを出し、病気を治した者には王国の半分を与えると約束した。国中から怪しい術者やいかがわしい者が集まった。それでも病気を治す方法は見つからない。王様は再び賢者に意見を求め、王様は賢者の進言にしたがってお触れを出し、病氣を治した者には王国の全部を与えると約束した。すると国中から猫や杓子まで、あらゆる者が集まってきたが病氣を治す方法は見つからない。王様はもう一度賢者を招いて意見を求めた。国を手離す覚悟があるのなら、と賢者は言った。その覚悟でお酒を飲むのをやめなさい。しかし王様は飲むのをやめようとしなかった。賢者を城から追い出して、病気で死ぬまで飲み続けた。

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2015年8月28日金曜日

スティールワールド

スティールワールド
Robot Overlords
2014年 イギリス 90分
監督:ジョン・ライト

宇宙から現われたロボット軍団によって地球は占領され、それから3年、人類は首にセンサーを埋め込まれて外出を禁止され、ロボット軍団のほうでは危害を加えるつもりはない、人類に関する調査が終わったらきれいに引き上げると約束し、ロボットは嘘をつかない、と繰り返しているが、外出禁止を破った者は殺されているし、腕に腕章をつけた人類の裏切り者が好き放題にしているのを見る限りではとてもそうとは思えない、ということで、英国空軍にいた父親を探すショーン・フリンはふとしたことから埋め込みセンサーを無効にする方法を発見して仲間と一緒に家を脱出、父親が生存しているという手がかりを見つけると手がかりに向かって町を移動し、一方、ショーンの母親ケイトに懸想する裏切り者スマイスはケイトを人質に取り、母親を助けるために裏切り者の拠点に向かったショーンは自分がロボットへアクセスできることに気づいてロボットを使ってスマイスとその一味を降伏させ、母親を取り戻すと父親を探して森を抜け、ショーンの危険性に気づいたロボット軍団はロボット部隊と母船でショーンを追う。 
監督・脚本はアルコールを嫌うエイリアンと泥酔状態で戦う『グラバーズ』のジョン・ライト。『トライポッド』系の正統派イギリスSFという感じで『グラバーズ』ほどの破天荒さはないし、解決が少々安易だという難点もあるが、こじんまりとよくまとまっている。人類の裏切り者スマイスがベン・キングズレー、スマイスが懸想するケイトがジリアン・アンダーソン。複座のスピットファイアという珍しい機体が登場する。 


Tetsuya Sato

2015年8月27日木曜日

ジュピター

ジュピター
Jupiter Ascending
2015年 アメリカ/イギリス/オーストラリア 131分
監督:ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー

ロシアからアメリカに不法移民する途中で生まれたジュピター・ジョーンズがシカゴの叔母の家でハウスクリーニングの仕事をしながら救いのない現実を嘆いていると、いきなり化け物に殺されかかって耳の尖った戦士ケイン・ワイズに命を救われ、出迎えの宇宙船が来るということで待っているとその宇宙船が目の前で爆発、ジュピター・ジョーンズはケイン・ワイズに抱えられて空へ逃れ、そこへ怪しい姿の戦闘機が襲いかかり、シカゴの上空で空中戦をやってビルを破壊したあと、ジュピター・ジョーンズはケイン・ワイズに連れられてスティンガーと名乗る男の家を目指し、ジュピター・ジョーンズが蜂をあやつる様子を見るとスティンガーがジュピター・ジョーンズを陛下と呼び、王族のDNAと蜂の習性に関する云々を聞かされているとそこへ再び刺客の群れが現われ、ジュピター・ジョーンズは宇宙へさらわれてアブラサクス家の長女カリークの屋敷へ運ばれ、そこでDNAに関する云々と細胞の交換に関する云々と長命技術に関する云々を聞かされると連邦のイージス軍なるものがジュピター・ジョーンズを迎えに来て連邦に運び、ジュピター・ジョーンズがそこで即位の手続きを済ませると再びさらわれて今度はアブラサクス家の次男タイタスの船へ運ばれ、そこで長命技術に関する云々と地球に関する云々を聞かされてから結婚を申し込まれ、タイタスの真意を知ったケイン・ワイズは結婚式の最中に突っ込んできてジュピター・ジョーンズを救い出し、ジュピター・ジョーンズをシカゴの家に送り届けると家族が誘拐されていて、家族の命と引き換えにということでまたさらわれて木星大気圏内にあるアブラサクス家の長男バレムの都市に運ばれ、そこでアブラサクス家の母親に関する云々と相続に関する云々を聞かされたあと、相続権の放棄を求められるので、バレムの真意を知ったケイン・ワイズは木星大気圏に降下して都市のシールドを破壊、どこまでいっても同じような戦いのあと、ジュピター・ジョーンズを救い出す。 
監督の好みがストレートに出たデザインがごてごてとしていて見づらいしだけだし、中身のほうもはっきり言ってどうでもいいという感じだが、意味不明の「陛下」も含めて「作られ方」がなんとなく『恋空』に似ていなくもない、という気がした。つまりきわめてマスターベーションに近い何かだと思う。ミラ・クニスは魅力がない。チャニング・テイタムは、あれはまじめにやっていたのか。エディ・レッドメインには注目しておきたい。 


Tetsuya Sato

2015年8月26日水曜日

ナイト・スワローズ 空爆戦線:ユニット46

ナイト・スワローズ 空爆戦線:ユニット46
Nochnye lastochki
2013年 ロシア 376分 TV
監督:ミハイル・カバノフ

『対独爆撃部隊ナイトウィッチ』と同じく、第46親衛夜間爆撃航空連隊を舞台にしたテレビシリーズ。冬に撮影されているのでポリカルポフPo-2も冬季仕様で白く塗られている。DVD2巻はおおむね45分の8話構成で、やたらと美人率の高い飛行士たちが爆撃任務をこなしたり、地上の陸軍偵察部隊と連携したり、偵察部隊の兵士たちと恋に落ちたり、とにかく陰険な政治将校を殴ったり、ドイツ軍による化学兵器使用の証拠を見つけたり、ドイツ軍陣地のサーチライトを精密爆撃で破壊したりしていると、クェンティン・タランティーノにそっくりのドイツ軍情報部の将校が「おのれロシアの魔女め」と罵ってややこしい陰謀をしかけたり、怪しい博士が発明した個人用の暗視装置をメッサーシュミットのパイロットに渡して襲わせたりする。見ていると全体に規律はゆるめで、陰険な政治将校も途中で退場するし、指揮官の大佐はみんなに愛されるおじさんだったりする。どちらかというと色恋の部分が多くて戦争はどうかするとついでにやっているように見えなくもないが、第二次大戦を扱ったロシア製のテレビシリーズとしてはお金がかかっているほうだと思う。ポリカルポフPo-2の実機はおそらく一機のみだが、輸送用にDC-3が登場するほか、ゲストでT-34が登場して雪煙を上げて疾走する。 


Tetsuya Sato

2015年8月25日火曜日

スターリングラード 史上最大の市街戦

スターリングラード 史上最大の市街戦
Stalingrad
2013年 ロシア 131分
監督:フョードル・ボンダルチュク

2013年、東日本大震災の救援活動のために現地に到着したロシア人のグループはなぜかドイツ人ばかりが生き埋めになった建物を発見、内部にカメラを入れて生存者にドイツ語で話しかけると生存者が話を続けてほしいと頼むので、ロシア人は自分には五人の父親がいる、ということを言って1942年11月のスターリングラードにおける出来事を語り始め、ロシア軍がヴォルガ川を越えてドイツ軍燃料貯蔵庫に肉薄すると貯蔵庫の指揮官カーン大尉は燃料庫を爆破、噴き出た炎によって火だるまになったロシア兵は火だるまのままドイツ軍陣地に突入し、ドイツ軍は察するところ脅えて退却に移り、グルモフ大尉が率いる少数のロシア兵は河畔にあるアパートを占拠、そこに河川海軍水兵やその他の兵士なども加わり、対岸の師団司令部からそこを三日間確保しろという命令を受けるので各階に兵を配置しているとアパートのもともとの住人で家族を亡くしたあと、一人でなおも住み続けている少女カーチャを発見、兵士たちの気持ちはなんとなくこのカーチャを中心に動くようになり、一方、司令部に戻ったカーン大尉は明らかにそりの合わない上官からあれやこれやと叱責を受けてアパートの奪還を命令され、任務をなんとなく先送りにしながら地下へ下りて、そこで避難生活を強いられている市民のあいだを縫ってロシア人女性マーシャの部屋へ通っては食料を渡し、愚痴を言い、ロシア的野蛮さに取り込まれつつある自分を嘆き、そうしているととりあえずかき集めたとおぼしき一個小隊ほどが集まるので、それを指揮してアパートに突入、見事に反撃されるので再びマーシャとの親睦を深め、河畔のアパートではロシア兵たちがカーチャの誕生日を祝い、それぞれの思いを抱えていると、ドイツ軍が本腰を入れて攻め込んでくる。 
というわけで市街戦というよりも寄せ集め部隊で拠点防御という内容で、監督はセルゲイ・ボンダルチュクの息子で『収容所惑星』などのフョードル・ボンダルチュク。ヴォルガ川河畔で十字を切っていた老兵はおそらくセルゲイ・ボンダルチュクであろう。かなり手間のかかった大作で、美術などは非常によくできているし、(東日本大震災は余計だとしても)脚本もそれなりにできているが、画面設計が微妙にまとまりを欠き、無用のハイスピード・ショットが目立つほか、白兵戦になるとほぼ『300』というのはいかがなものか。それでも戦闘シーンはそれなりに迫力があり、目の前にハインケル He 111が降ってくるし(爆撃中の機体を真上から捉えたショットがあり、翼面積の広さがよくわかる)、三号突撃砲(たぶん)も顔を出すし、ケッテンクラートもちゃんと走っている。細部にこだわった美術に助けられているような気がするが、この監督としてはかなりいい仕事をしていると思う。


Tetsuya Sato

2015年8月24日月曜日

サイレント・マウンテン 巌壁の戦場

サイレント・マウンテン 巌壁の戦場
The Silent Mountain
2014年 オーストリア/イタリア/アメリカ 94分
監督:アーンスト・ゴスナー

1915年、チロルでホテルを経営するグルーバー家の長男アンドレアス・グルーバーは姉リズルがイタリア人アンジェロ・カルツォラリと結婚したことに激しく反発するが、アンジェロの妹フランチェスカと恋に落ち、そこで第一次大戦が勃発、カルツォラリ一家はイタリアに戻って姉夫婦は引き裂かれ、寄宿学校へ戻ることを拒んだフランチェスカはアンドレアスに匿われてチロルに残り、アンドレアスは翌日父親とともに出征(オーストリア正規軍というよりは地元の義勇軍のように見える)してドロミーティの山頂に陣を張って山岳猟兵部隊と合流、反対側のイタリア軍には徴兵されたアンジェロがいる、という状況でイタリア戦線が動き出すが、リズルに懸想する地元の教師がフランチェスカの存在に気がついて悪事を働き、さらにリズルにも悪事を働くのでアンドレアスは気が気ではなく、一方、オペラ狂の大尉に率いられたイタリア軍はオーストリア軍の足元に向かってトンネルを掘り、トンネルを掘って敵陣に突入するはずがオペラ狂の大尉は山ごと爆破すると言い始めるので、アンジェロは脱走してオーストリア軍の陣地へ走り、教師はさらに悪事を働くのでアンドレアスは家に走る。 
オーストリア軍山岳猟兵を含めて制服などはきちんと再現されているように見えるし、オーストリア、イタリア双方の陣地構築の風景などは珍しいし、イタリア軍指揮官はやっぱり狂気にとらわれているし(レオーネ将軍には負けているが)、高所では機関銃に落雷するんだね、という珍しい描写があるし(とはいえ、それがわかっているなら雷が鳴っているときにはどちらも外へ出ないであろう)、東アルプスの雲海の下で繰り広げられる砲撃戦はなにやら幽玄でもあるが、戦争の悲劇にばかり気を取られて肝心の戦争をきちんとやっていない、というどこかの国の戦争映画のようなことになっていて、わかるのは山岳戦だというところまでで、その先の空間がまったく把握できない上に、94分という比較的短い尺であるにもかかわらず、だれ場が目立つ。序盤の結婚式のシーンでクラウディア・カルディナーレが顔を出している。ちなみにDVDはインターナショナルバージョンだからなのか、英語版のみ。イタリア側はイタリア語をしゃべっているのにチロル側は英語をしゃべっている。


Tetsuya Sato

2015年8月23日日曜日

Plan-B/ 泥棒

S7-E22
泥棒
昔むかし、海と空の向こうの国に恐ろしく腕のいい泥棒がいた。あるとき、この泥棒がとある金持ちに狙いをつけて、家に忍び込んで右目を盗んだ。あまりにも手際がよかったので金持ちは右目を盗まれたことに気がつかなかった。泥棒は次の日にも忍び込んで今度は左目を盗み取った。金持ちは気がつかなかった。泥棒はさらに右腕を盗み、左の腕も盗み、右脚を盗み、左の脚も盗んだが、手際がよかったので金持ちはまったく気づかなかった。気づかないままいつものように暮らしていると、見るに見かねた隣人が近寄っていって、盗まれた物の一つひとつを数え上げた。すると金持ちは悲鳴を上げて、奈落の底に落ちていった。

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2015年8月22日土曜日

Plan-B/ 仙女

S7-E21
仙女
 昔むかし、海と空の向こうの国に魔法を使う仙女がいた。仙女が杖の先で石を叩くと石が割れて美しいお姫様が現われた。仙女が杖の先で蛙を叩くと蛙は美しい王子様に変身した。仙女が杖の先で木の幹を叩くと幹が割れて美しいお姫様が現われた。仙女が杖の先で蟹を叩くと甲羅が割れて美しい王子様が現われた。仙女が杖の先で壁を叩くと壁が割れて美しい王子様やお姫様が現われた。仙女が杖の先で敷石を叩くと道が割れて地面の下からたくさんの王子様やお姫様が現われた。仙女をとめる手立てはなかった。

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2015年8月21日金曜日

Plan-B/ 煉瓦

S7-E20
煉瓦
 昔むかし、海と空の向こうの国の山と川のあいだの森の奥に呪われた煉瓦が転がっていた。旅人が近づいてくると煉瓦はぶるぶると震えて飛び上がって、旅人の額を粉砕した。煉瓦は旅人の身ぐるみを剥いで、旅人になりすまして町へ行った。道に転がって行き交うひとの流れに目を配り、王様が近づいてくるとぶるぶると震えて飛び上がって王様の額を粉砕した。煉瓦は王様の身ぐるみを剥いで、王様になりすまして城へ行った。城の床に転がっていると、隣の国が攻め込んできた。城は燃え、町は廃れ、国があった場所は森に戻った。呪われた煉瓦が森の奥に転がっている。

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2015年8月20日木曜日

Plan-B/ 誘惑

S7-E19
誘惑
 昔むかし、海と空の向こうの国に仲睦まじい夫婦がいた。あるとき、夫が一人で旅に出て、妻はたった一人で家に残った。一週間が経ったころ、見覚えのない男が現われて妻に愛を囁いた。妻は男を拒んだが、男は贈り物を持ってまた現われて再び愛を囁いた。拒むとさらに高価な贈り物を持って現われた。何度拒んでも男は贈り物を持って現われた。現われるごとに愛の囁きは執拗になり、現われるごとに贈り物は高価な物になっていった。それでも妻は拒み続けた。拒み続ける妻の前で男はついに正体を明かした。男は旅に出たはずの夫だった。妻を試していたのだった。夫は妻の貞節を喜び、天は夫婦を祝福して鐘を鳴らした。妻は夫をその場に殴り倒して、荷物をまとめて旅に出た。

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2015年8月19日水曜日

サン・オブ・ゴッド

サン・オブ・ゴッド
Son of God
2014年 アメリカ 138分
監督:クリストファー・スペンサー

TVミニシリーズ『The Bible』の劇場用再編集版で、創世記から始まって福音書まで続く300分を2時間強に圧縮し、イチジクを食べるアダムとイブ、出エジプト、大洪水、ダヴィデとゴリアテなどは回想するヨハネの頭に一瞬だけ登場し、イエス生誕は早回しにされ、エジプトへの脱出は飛ばされ、荒野での40日もほぼ飛ばされ、洗礼者ヨハネはイエスの回想で一瞬だけ登場し、説教を始めたイエスが弟子を増やしながらエルサレムへ入るまでで前半、カヤパが政治的板挟みの状態でパリサイ人の正体をさらしながらイエスを陥れて磔刑に至るまでが後半という構成で、福音書素材の映画としては珍しいのは、まずマグダラのマリアが常に弟子の中にいること、カヤパがおもに政治家として描かれていること、ローマ兵の暴虐が具体的に描かれていること、ピラトがインテリではなくて武闘派として描かれていること、十字架の上のイエスがこと切れると神殿の幕が裂けるだけではなくて、エルサレム全体がほぼ震度5強の地震に襲われること、などであろう。イエスを演じたディオゴ・モルガドは少し垂れ目のモダンなイケメンで、この垂れ目が気がつくと垂れ目が気になってならなかったという点を除けば悪い仕事はしていない。弟子を中心に周辺人物はよく顔を選んであって、雰囲気でなんとなく識別できる、というのはおそらく伝統的な象徴表現におおむね忠実な描写がおこなわれているからであろう。いまどきの映像作品としてはCGがかなりしょぼい(おもにエルサレムの遠景)という問題があるものの、悪くはないと思う。オリジナルのほうを見てみたい。 


Tetsuya Sato

2015年8月18日火曜日

Plan-B/ 姉妹

S7-E18
姉妹
 昔むかし、海と空の向こうの国に貧しい四人の姉妹がいた。上の三人は醜い上に性格も悪くて、貪欲で妬み深かった。しかし一番下の妹は輝くような美貌と清らかな心の持ち主で、その澄んだ歌声は木を蘇らせ、鳥や動物や数多くの求婚者を呼び寄せた。三人の醜い姉は妹を妬んだ。妬んだ上に家事全般を押しつけて下女のようにこき使った。無理難題を押しつけて暴力をふるった。求婚者たちが救いの手を差し伸べたが、どれもが三人の醜い姉によって滅ぼされた。一度は王が軍勢を率いて攻め寄せてきたが、王も軍勢も三人の醜い姉によって滅ぼされた。どこからか悪党どもが湧いて出て、三人の醜い姉に向かって国を乗っ取るようにとそそのかしたが、その悪党どもも三人の醜い姉によって滅ぼされた。海と空の向こうの国の四人の姉妹は、だからまだ最初の場所から動いていない。

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2015年8月17日月曜日

Plan-B/ 兄弟

S7-E17
兄弟
 昔むかし、海と空の向こうの国に穴ぐらで暮らす七人の兄弟がいた。七人の兄弟は一つの食器を七人で使い、一枚の毛布を七人で使い、一つの寝台で七人で眠った。夏が来て寝苦しい夜が続いたあと、上の六人は相談をして、一番下の弟を殺すことにした。どうやって殺すかも相談して、穴に落として生き埋めにするのがよいということになり、さっそく裏の山に深い穴を掘ると、下の弟をそこに落として生き埋めにした。翌日、兄弟の父親がやって来て、三人の弟を置いていった。

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2015年8月16日日曜日

Plan-B/ 蠅

S7-E16
 昔むかし、海と空の向こうの国に怠け者の王様がいた。怠け者の王様は毎日ごろごろと怠けて暮らしていた。そして一日に一回だけ、ごろりと横に転がって小さな蝿に変身した。蝿になった王様は勇ましい羽音を立てて、畑を目指して飛んでいって、働き者の農夫たちの邪魔をした。畑の次は町へ飛んで、商人たちの仕事の邪魔もした。兵営にも飛んでいって兵隊たちの邪魔もした。さらに学校で子供たちの邪魔をしたり、台所に飛び込んで女たちの邪魔をしたり、藪にもぐって逢引中の男女の邪魔をしたりした。納得するまで邪魔をして、たっぷり働いた気分で城に戻り、それからごろりと横に転がって、ごろごろと怠けて暮らす王様になった。

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2015年8月15日土曜日

Plan-B/ 予言

S7-E15
予言
 昔むかし、海と空の向こうの国に穴ぐら暮らしの貧しい小作人がいた。あるとき、この小作人のところへ一人の予言者が現われて、あなたは王様になると予言した。王様になることを夢に見ていた小作人はついにその日がやって来たと小躍りして、仲間を誘って地主屋敷に襲いかかり、地主一家を皆殺しにして金品を奪った。奪った金で手勢を増やして代官屋敷にも襲いかかり、代官一家を皆殺しにして金品を奪った。奪った金で手勢をさらに増やして鎮圧に出てきた軍隊を滅ぼし、その勢いで一気に都まで攻め登ると王様の城に駆け込んで王様を殺した。王妃を自分の妻に迎えて自分の頭に王冠を載せ、予言のとおりに王様になって夢見たとおりの圧政を敷いた。

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2015年8月14日金曜日

Plan-B/ 血

S7-E14
 昔むかし、海と空の向こうの国に十六人の王子を持つ王様がいた。腹違いの王子たちはいつもいがみ合って暮らしていて、しょっちゅう拳を握って殴り合い、ときにはその拳を王様にも振り上げたので、たまりかねた王様は庭にそそり立つ樫の大木に目をとめると、家来に命じて王子たちをまとめてその木に縛りつけた。この樫の木は人間の血の味を知っていて、それまでにも下男や下女をかどわかしては血をすすっていたが、栄養状態が良好で、しかも血の気の多い若者を一度に十六人も与えられたので、大喜びで夜になるのも待たずに王子たちの血を吸い始めた。王子たちはたちまちのうちに血の気を失っていったが、それでもいがみ合うのをやめようとしない。呆れた王様が見守っていると、すっかり血を吸い取られて、一人また一人と死んでいった。海と空の向こうの国にはいまでもまだ王様がいるが、王子は一人も残っていない。

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2015年8月13日木曜日

エヴァリー

エヴァリー
Everly
2014年 アメリカ 93分
監督:ジョー・リンチ

タイコと名乗るヤクザの親分に四年間も囲い者にされて自由を奪われていた非力な娼婦エヴァリーはたまたま警察と接触することに成功してタイコ逮捕のために組織の情報を流すことに同意するが、たちまち正体が露見してアパートのトイレに追いつめられ、隠しておいた電話で担当刑事にかけても相手が出ない、ということで同じ場所に隠しておいたワルサーP99を手に取ると部屋に戻ってその場にいたヤクザ数人を殺害、そこへタイコから電話がかかってエヴァリーの娘メイシーに手をかけると脅すので、エヴァリーは母親に連絡してメイシーの安全をいったん確保、娘に会うために部屋から出ようとするとアパート全体がヤクザに占拠され、賞金首となったエヴァリーをねらって同じフロアの娼婦たちが次から次へと襲いかかり、ショットガンを持った見張りも襲いかかり、それをことごとく撃退するとエヴァリーはさらにシェパードと戦い、わたしはサディストです、これはわたしのマゾヒストです、いけマゾヒスト、うおお(マゾヒストだからサルマ・ハエックに撃たれてもうれしいだけだ)、などというものと戦い、サディストに捕えられて拷問の恐怖と戦い、タイコが送り込んできた完全武装のヤクザ特殊部隊と戦い、手榴弾を投げ、Ultima 100マシンガンを撃ちまくり、最後にタイコ本人と戦う。 
ということで最初から最後までアパートの一室からほぼ出ずに、サルマ・ハエックが血まみれになりながら、上のフロアから苦情が出るほどの騒々しさで死体の山を積み上げていく。ゴア描写は遠慮がなく、表現はほぼスプラッターで、サルマ・ハエックが怪演すると、ヤクザの親分に扮した渡辺裕之も変態ぶりを積み上げていく。演出はやや要領を得ないし、構成も微妙にバランスを欠いているが、サルマ・ハエックをいじり倒すという目的は明確で、この目的はきちんと達成されており、異様な日本情緒も含めて笑いどころも事欠かない。エヴァリーに腹を撃たれて死にかけているだけ、という役柄のアキエ・コタベという日系の俳優がいい味を出していた。


Tetsuya Sato

2015年8月12日水曜日

恐怖の人体研究所

恐怖の人体研究所
The Atticus Institute
2015年 アメリカ 92分
監督:クリス・スパーリング

1976年9月、ESPの研究をしている民間施設アティカス研究所にジュディス・ウィンステッドという40過ぎの女性が検査に訪れ、所長のヘンリー・ウェスト博士以下スタッフがゼナー・カードなどの基本的な検査に取りかかると驚異的な結果が記録され、念動力や読心術でも気味の悪いほどの能力を示すものの、ジュディス・ウィンステッドの奇怪な行動に恐怖を感じた研究所は助けを求めて国防情報局に資料を提出、ソ連の後追いでESPの研究を検討していたDIAはジュディス・ウィンステッドに関心を示し、以降アティカス研究所はDIAの指揮下に編入されて警備の兵員が配置され、ジュディス・ウィンステッドにはさまざまな検査が繰り返され、医学的な検査では体内に未知の物質が検出され、遠隔地にいる人間の名前と場所を言い当て、さらにその人物の心拍までも操作できることが判明するに至ってジュディス・ウィンステッドは戦略兵器に位置づけられ、そこに至る過程で能力を発揮しているのはジュディス・ウィンステッド本人ではなくてジュディス・ウィンステッドに憑依している何かだという認識からその何かの正体を調べていくと、これはどうやら悪魔らしい、ということになり、だったらあきらめるかというとそういうことはなくて、本気で悪魔をコントロールしにかかる。 
アメリカ政府が公式に認めた唯一の悪魔憑き現象、という触れ込みで、当時の記録映像、写真、開示された機密情報、生存者のインタビューなどがフェイク・ドキュメンタリー形式で構成されており、中盤で軍が介入してくると冷酷非情ぶりが悪魔と大差ないというあたりがなかなかに不気味。予算のかかった映画ではないが、70年代の雰囲気はよく出ているし、見せ方も上手で、科学的に検証されていく悪魔憑きの様子はかなり怖い。

Tetsuya Sato

2015年8月11日火曜日

Plan-B/ 探求

S7-E13
探究
 彼は若くして博学を誇り、大学に迎えられて隠秘学を修めるとその方面で並ぶ者のない業績を挙げたものの、禁断の魔道書に触れたことで道をはずし、研究に耽溺して大学教員としての義務を忘れ、同僚や上司に対して超然とふるまったために大学を追われ、場末の薄汚い部屋に逃れて市井の研究者となる道を選んだが、孤独な研究生活は当初のもくろみに反して彼に停滞と困窮をもたらし、とりわけ困窮ぶりは目に余るものがあったので、心配した友人の勧めにしたがって地方の小さな大学に職を求め、それでどうにか経済的な安定は得ても暗黒世界への渇望は一瞬たりともやむことはなく、大学の忌まわしい内情と同僚の忌まわしい俗物ぶりに悩まされながらもなお探求を続けようと試みて、ある日ついに発狂した。彼はすべてを捨てて山へ駆け込み、その後の行方は知る者はなかった。それから数年を経て、わたしは山岳地帯を徘徊して住民に脅威と恐怖を与える怪物の存在を知り、武装した仲間を連れて山に入った。山の中の危険な道を進んでいくと藪から何かが飛び出してきた。それは人知を超越した姿をしていたが、わたしの鼻先をかすめて藪に逃げ込み、理性を備えた人間の声で何度となく、あぶないところだった、とつぶやいた。わたしはその声に聞き覚えがあった。間違いなく彼の声だった。わたしは仲間を背後に残して藪に近づき、彼の名前で呼びかけた。彼はわたしの呼びかけにこたえて、正体を認めた。わたしが耳を傾けると、彼はかすれた声で話し始めた。魔道書の研究に傾倒したこと、神秘の呪文を突き止めたこと、その呪文を使ったこと、そのせいで肉体に異変が起こったこと、理性を失ったこと、失った理性がたまに戻ること、などを話していたような気がするが、しなければならないことがあったので、わたしはほとんど聞いていなかった。わたしは目配せをして仲間を呼び寄せ、藪に向かってショットガンの弾をあられのように撃ち込んだ。藪に入って調べると、そこではおぞましい怪物が死にかけていた。だが、どのようにおぞましかったのかをここであきらかにするつもりはない。わたしはさらに数発の弾を浴びせて、この怪物にとどめを刺した。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.

2015年8月10日月曜日

Plan-B/ 信徒

S7-E12
信徒
 古ぼけたバスが騒がしく音を立てて町の広場に入ってきて、広場の隅に停まってドアを開けた。異様な雰囲気の男たちがからだを揺すりながら降りてきた。着ているものは様々だったが、誰もが帽子を目深にかぶり、大きなサングラスで目を隠して、ぐるぐると巻きつけたマフラーで顔の下半分を隠していた。一列になってよたよたと、町の目抜き通りを横切っていく。そろって扁平足なのか、歩く姿がどこかおかしい。誰もが同じように背中を丸めて歩くので、大量生産された安物に見える。そして報告のとおりなら、あのサングラスとマフラーの下には魚の顔があるはずだ。上着の襟の下には大きな鰓があるはずだ。信徒たちだよ。わたしの横で老人が言った。老人はその信徒たちに近づいて、腰をかがめて手を差し出した。信徒の一人ひとりが足を止めて、老人の手に小銭を置いていく。老人は小銭を受け取るたびに頭を下げて、信徒たちの健康を祈った。合図があった。わたしたちはピストルを出して、いっせいに信徒たちを取り囲んだ。棍棒を握った同僚が信徒の一人を殴りつけた。計画どおりに、すぐに護送車がやって来た。わたしたちは信徒たちをつかまえて、端から護送車に詰め込んだ。作戦は終わり、また一つ邪教の脅威が取り除かれた。なぜこんなことを、と老人が叫んだ。こんないいひとたちに、なぜこんなひどいことを。走り去る護送車に、老人は手を振りながら叫び続けた。どうか、どうか、あなたがたに神のご加護を。

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2015年8月8日土曜日

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
Mission: Impossible - Rogue Nation
2015年 アメリカ 131分
監督:クリストファー・マッカリー

イーサン・ハントのチームが謎のテロ組織シンジケートの正体を追っていたころ、ワシントンではCIA長官アラン・ハンリーが査問会でIMFの廃止を訴え、場当たり的で危険な組織だという主張が認められてIMFが解体されたころ、IMFのロンドン駐在エージェントが殺害され、イーサン・ハントはシンジケートに捕えられ、そこに現われた謎の女イルサ・ファウストに救われて脱出を果たすとCIAの追手をかわしながら単独でシンジケートに関する調査を続け、CIAに転職したベンジー・ダンを巻き込んでウィーンで騒ぎを起こし、そこで再び謎の女イルサ・ファウストに出会って手がかりを受け取り、その手がかりを頼りにモロッコへ飛んで死にかけ、正体を明かしたイルサ・ファウストを追って取り逃し、ロンドンへ飛んでシンジケートが仕掛けた罠に飛び込み、奪われたベンジー・ダンを取り戻すためにシンジケートの裏を読み、恐るべき秘密が明かされてシンジケートの寝ぼけた正体が判明する。 
監督・脚本は『ジャック・リーチャー』のクリストファー・マッカリー。ブラッド・バードが『ゴースト・プロトコル』で開いた路線を拡張しながら思い切りよくアイデアをぶちこんで傑作にしている。序盤で航空アクションをぶつけたあとは謎が勝手に謎を呼び、裏の裏を読んで裏返るようなプロットをテンポがよくてねちっこいアクションでつなぎ、IMFの秘密指令はいきなり乗っ取られているし、トム・クルーズはほぼ終始死にかけているし、ヒロインはなぜかサイモン・ペッグだし、レベッカ・ファーガソン扮するイルサ・ファウストが無敵の強さを発揮して、しかもアレック・ボールドウィンはなんとなく『30 ROCK』のノリでいかがわしい、ということで全編、目を離すことができなかった。 


Tetsuya Sato

ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム

ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム
Shaun the Sheep Movie
2015年 イギリス/フランス 86分
監督:マーク・バートン、リチャード・スターザック

牧場で暮らしているひつじのショーンは毎日の決まりきった生活に飽きあきしてきて、休暇を取ろうと思いつくと仲間のひつじたちと計画を練り、鳩を食パンで買収し、翌朝いつものように活動を始めた牧羊犬のビッツァーを鳩が謀略で遠くへ送ると家から出てきた牧場主を「ひつじの群れが一匹ずつ柵を飛び越える」という術策で眠りに落とし、熟睡した牧場主をトレーラーハウスの寝台に放り込むと母屋を占拠してジャンクフードの準備にかかり、テレビの前に勢ぞろいして映画鑑賞としゃれ込もうとしたところでビッツァーが現われ、ビッツァーに追われて牧場主の回収に出向くとトレーラーハウスが勝手に転がり出し、牧場主はそのまま都会へ運ばれて頭を打つと記憶を失ってしまうので、ショーンは牧場主と牧場主を追っていったビッツァーを回収するために都会へ飛び出し、そこで勝手についてきたひつじの仲間たちと合流すると、恐怖の動物捕獲人の追跡をかわしながら大都会を彷徨する。 
アードマン・スタジオ『ひつじのショーン』の劇場版。飛び抜けたところはないものの、非常に丹念に作られていて好ましい。劇場版だから、ということになるのか、シーン数が非常に多くて、都市圏に入ると路上のひとや車の流れからバスターミナル、病院、レストラン、美容院、路地裏、恐怖の動物収容施設などが緻密なミニチュアで作られていて、その芸の細かさには毎度のことながら感心する。一緒に鑑賞していたまわりの子供たちが本当に楽しんでいて、反応が面白かった。 


Tetsuya Sato

2015年8月7日金曜日

ジュラシック・ワールド

ジュラシック・ワールド
Jurassic World 
2015年 アメリカ/中国 125分
監督:コリン・トレヴォロウ

ジュラシック・パークの事故から20年後、ハモンドの遺産はサイモン・マスラニが率いるマスラニ社に受け継がれ、マスラニはコスタリカ沖の島をジュラシック・ワールドとして再生させて毎日二万人が訪れるテーマパークとして成功させるが、常に新しいアトラクションを求める観客のために2600万ドルをかけて開発した新種を仕様を理解しないまま不適切な管理下で飼っていたため、この新種が檻を破って逃走、マスラニ社は初期対応に失敗して被害を拡大させ、そこへ恐竜の軍事利用をしきりと主張するインジェン社が介入、逃走した新種を訓練されたヴェロキラプトルに追わせるという案を出し、ラプトルの調教にあたっていたオーウェンがインジェンの武装チームとともに出撃するが、新種の仕様に関する情報開示の不足から作戦は失敗、チームは全滅し、生還を果たしたオーウェンはマスラニ社のクレアとともに新種と対決する。 
クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワードは非常にいい仕事をしていたと思う。監督は『彼女はパートタイムトラベラー』のコリン・トレヴォロウ。インディー系の監督がこの大作を立派にこなしている。ジュラシック・ワールドのおもに人間でひしめいているテーマパークぶりが俗悪な部分も含めてよくデザインされており、家族の絆だの兄弟の絆だの男女の絆だのといったややわずらわしい要素も邪魔にならない程度によく整理されて盛り込まれ、ラプトルの猟犬ぶりも楽しいし、全体としてのバランスもよい、ということで、このシリーズではいちばん面白いのではあるまいか。話に出てくるだけでいっこうに顔を出さないので妙だなと思っていたら、トリはやっぱりあのひとでした、という仕組みになっているものの、モササウルスに淡々と華を奪われていたような気もしないでもない。ピンツガウアー、ウニモグの登場がちょっとうれしい。



Tetsuya Sato

2015年8月6日木曜日

Plan-B/ 色彩

S7-E11
色彩
 夜の闇の向こうから、喉を震わせて笑うような耳障りな音が聞こえてきた。初めは蛙が鳴いているのかと思ったが、雪に閉ざされた岩山に蛙はいない。仲間の一人が夜空に向かって松明を掲げ、わたしはそれを合図にライフルをかまえた。吐く息が白い。気配があった。見えない何かが近くにいた。おびえた案内人が走り出して、見えない何かに捕えられて悲鳴を上げた。松明の炎に照らされて、案内人のからだがしぼんでいく。皮膚を骨に貼りつけて、見る間にミイラのような姿になっていく。わたしは発砲した。狙ったつもりはなかったが、弾は案内人に命中した。慈悲の弾が断末魔の苦しみを少しでもやわらげたと信じたい。案内人のしぼんだからだがごみのように投げ出され、異様な色を次々に重ね合わせてそれが姿を現わした。絡み合う管のかたまりのような怪物が宙に浮かんで、耳障りな声で笑っていた。近づき過ぎた仲間の一人が捕えられた。わたしはもう一度発砲した。狙ったつもりはなかったが、弾は仲間に命中した。慈悲の弾が断末魔の苦しみを少しでもやわらげたと信じたい。わたしはその場にライフルを捨てて、一目散に逃げ出した。

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2015年8月5日水曜日

Plan-B/ 納屋

S7-E10
納屋
 納屋の奥の藁の上に、一人の男が転がっていた。頭髪を失い、体毛も失い、ぼろ同然の服をまとい、痩せこけて、後ろ手に縛られて、寒いのか、怖いのか、しきりにからだを震わせていた。顔や手に、いくつもの黄ばんだ斑点が浮かんでいる。中心が黒ずんで、わずかに血をにじませている。よく見ると、一つひとつが息をしていた。男は目を固く閉ざして、開こうとしない。口も固く閉ざして、開こうとしない。耳に向かってふつうに話しかけても返事はない。だが特別な、呪われた言葉には反応する。忌まわしい音には反応する。歓喜とも苦痛とも取れる表情で、背中を反らして痙攣する。行って、戻ってきた者が目の前にいた。どのようにして行ったのか、どのようにして戻ったのか、語るべき口は閉ざされていた。この世界にいても、心はあの世界にあるようだ。覚めることを忘れて、夢に浸っているようだ。

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2015年8月4日火曜日

Plan-B/ 覚醒

S7-E09
覚醒
 あれに触れてしばらくしてから、夜毎に同じ夢を見るようになり、やがてからだに徴が現われて、何かが始まっていることに気がついた。いつの間にか、不思議な声を聞くようになり、声に耳を傾けているうちに、形にならない渇望が心の底から浮かび上がった。嗜好が変わり、好きだった物が嫌いになり、行動も変わり、知らぬ間に日常生活を見失った。食べることも飲むことも厭わしくなり、部屋にこもって不安を味わい、あるいは興奮と衝動に我を忘れ、ときには突然の恐怖に襲われて我が身をかきむしった。日毎に容貌が変わっていった。頭髪が落ち、体毛が抜け、光彩が色を失った。歯が抜けた。爪が剥がれて落ちていったた。無数の息をからだに聞き、光がある場所で闇を見つけた。いまはもう、入口が見える。

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2015年8月3日月曜日

Plan-B/ 召喚

S7-E08
召喚
 垂れ込めた黒雲から風が吹きつけ、玉の雨が島を洗った。風に吹かれ、雨粒に打たれて木々がたわみ、島を囲む海が白く泡立った。雷鳴が轟き、稲妻が空を裂いて廃墟を青く照らし出した。石積みの壁が雨に濡れている。かろうじて残った屋根の下に人影が見える。ローブをまとい、奇怪な杖を捧げ持ったいくつかの影が、風に向かって呪文を叫び続けていた。雲を破って、暗い何かが舞い降りてくる。暗黒の尾を引いて悪夢が近づいてくる。膿胞にまみれた化け物が地上に達して翼を広げ、痛みに喘ぐようにからだを大きく震わせた。ローブをまとった人影が、ローブを捨ててひざまずいた。膿胞が破れて胎児のようなものが転がり出て、廃虚の床で産声を上げた。動き始める。跳ねるように進んで人影の一つに躍りかかる。吹き上がる血しぶきが絶叫とともに風に乗った。

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2015年8月1日土曜日

ミニオンズ

ミニオンズ
Minions
2015年 アメリカ 95分
監督:ピエール・コフィン、カイル・バルダ

察するところ数億年前に発生して海中を漂いながら凶悪なボスを探していたミニオンたちは進化を遂げて上陸を果たし、以降、仕えるべき凶悪なボスを探し求めて人類とともに歴史を歩み、察するところモスクワ遠征に参加しているあいだに極北の地へたどり着いてそこで文明を発達させていくものの、そもそも凶悪なボスを求めるという存在理由から離れたせいでに二十世紀中葉を迎えて心理的な袋小路にもぐり込み、この鬱状態を打破するためにはなんとかして凶悪なボスとめぐり合う必要があると考えたケヴィンはスチュアート、ボブとともに長い旅に出てニューヨークに到達し、そこでオルランドで開かれる悪党大会ヴィラコンの存在を知ると悪事を家業とするネルソン一家の助けを得てフロリダに移動してヴィラコンに参加し、悪の女帝スカーレット・オーバーキルの子分となってイギリスに渡り、英国支配をたくらむスカーレット・オーバーキルの命令にしたがってエリザベス女王の宝冠をねらうが、エクスカリバーを引き抜いたボブが英国王の証を立てるので、スカーレット・オーバーキルの恨みを買う。 
ユニバーサルのロゴがミニオンの合唱とともに映し出され、現代世界に至るまでのミニオンの軌跡が小気味よくつながっていくところは掛け値なしに楽しいが、ケヴィンが決意をして旅に出るあたりから、そもそもアテンションスパンが短くて雑念が目立つこの生き物が、やはりアテンションスパンは短いし雑念も目立つものの、それでも一定の目的に沿って行動するというある種の矛盾が現われてきて、豊富に盛り込まれた小ネタとケヴィンを探してうろうろするミニオンの大集団がそれなりの盛り上がりを提供するにもかかわらず、ケヴィンたちの英雄的な行動がこのアテンションスパンが驚くほど短くて雑念が目立つ生き物の生態と微妙に一致しないという違和感を最後まで感じていた。勝手な話で恐縮だが、水準は十分にクリアしていても、こちらの過大な期待には残念ながら達していないということになる。スカーレット・オーバーキル(サンドラ・ブロックは声優を思い切り楽しんでいる)に集中するよりも、序盤の勢いを保ったまま、とにかく次から次へと勝手にボスを見つけてはボスを自滅させていくということで全体が構成されていればたいへんな傑作になったであろう。あと、個人的にはティムの問題がある。ボブはいつもティムという名前のぬいぐるみのクマを抱えていて、このクマがかなり危険な目に遭遇するので、見ているこちらは思わずボブに感情移入してティム、ティムと心の中で叫ぶことになる。このティムへの集中も、そもそもアテンションスパンが短くて驚くほど雑念が目立つこの生き物の性格とかみ合っていない(というか、本当に心配しなければならないので、ぬいぐるみのクマでサスペンスを盛り上げないでほしい)。 
Tetsuya Sato

Plan-B/ 接触

S7-E07
接触
 最後に受け取った手紙を手がかりにして、わたしは彼を探して山に入った。消印にあった山間の小さな町で道を聞いて、森の奥の荒れ果てた村を訪れた。廃村のようにしか見えなかったが、住人がいた。そこには向上する機会から見放された不幸で不潔な男女がいて、自分が不幸であることも不潔であることも知らないまま、自堕落で退化した生活を送っていた。わたしは彼を村のはずれの小屋で見つけた。変わり果てた姿になって、不潔な毛布にくるまって、目に狂気の色を浮かべていたが、まだ人格は残っていた。彼はわたしをわたしと見分けた。自分が何者で、どこから来たのかも覚えていた。初めは口を閉ざしていたが、堰を切るとあとはとめどがなくなった。熱に浮かされた状態で、わけのわからないことを話し続けた。時空を超えて旅する者に、森のどこかで出会ったという。それは人知を超越した存在で、想像を絶する姿で現われて、意思疎通を拒んだという。だから彼には見上げることしかできなかった。だが俺はそれに触れた、と彼は言った。そう言いながら、不潔な毛布の下から腕を出した。腐っていた。皮膚がぼろのように垂れ下がって、指の骨が剥き出しになっていた。見ている前で、溶けた肉がしたたり落ちた。わたしは悲鳴を呑み込んで、彼の前から、不潔な小屋から逃げ出した。わたしは町に戻ってすぐに病院に連絡を取り、病院が送った看護人が彼を安全な場所に連れ戻した。彼は右の肩から下を切断され、いまは隔離された病室にいる。

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