2015年7月31日金曜日

Plan-B/ 気流

S7-E06
気流
 ベルト着用のサインが点灯して、機長が乱気流による振動を予告した。乗客はうつむいてベルトの金具を手で探り、客室乗務員は満席の乗客に目を配りながら自分の席に戻っていく。機体が小刻みに揺れ始めた。大きく縦に揺れ動いて、多くの乗客が声をもらした。棚の蓋が弾けるように口を開けて、こぼれた荷物が乗客の頭に降りかかった。悲鳴が上がる。機体が揺れる。屋根に何かがぶつかって、重たい音が客室を揺すった。裂ける音が、壊れる音が、続けざまに響いてくる。音を立てて空気が走り、蒼ざめる乗客の前に酸素マスクが垂れ下がった。乗客たちがマスクに向かって手を伸ばすと、それと同時に減圧が起こった。天井の一角が一瞬のうちに吹き飛んで、あらゆる物が宙を飛び、数人の乗客が吸い出された。難を逃れた人々は虚空が叩きつける風にさらされて、椅子にしがみついて目を閉じた。空気がない。凍えていく。機体が軋む。飛び込むような勢いで機首が下がり、吹き荒ぶ風に悲鳴が混じる。猛烈な速さで降下している。背中を座席に押しつけた。薄目を開ける。この風の中を、何かが悠然と歩いている。暗いひびに覆われた灰色の巨体が目に入る。それは通路に立っていた。異様に長い腕を動かし、指の数がやたらと多い手を伸ばして、乗客の一人を鷲掴みにして、やすやすと椅子から引き剥がした。暴れるからだを腕に抱えて、機体の裂け目から出ていった。轟音が耳を苛んだ。耳をふさぐ。目を閉じる。まだ降下している。まだ終わらない。

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2015年7月30日木曜日

Plan-B/ 遭難

S7-E05
遭難
 凍てつく海で風が荒び、吹き上がるしぶきが夜を隠した。波が踊り、凍った雨が船を叩き、操舵室の暗がりでは厚着をした船員が回転窓に目を凝らした。風が唸る。どこからともなく、果てることなく繰り出される動揺を、船は疲れを知らずに乗り越えていく。粘るような闇の奥から稲妻がほとばしって海原を舐め、醒めるような青い光が雲にわずかな輪郭を与えた。船員が夜間双眼鏡を目にあてがって前をにらんだ。一瞬、顔に恐怖が浮かび、操舵員に向かって命令を叫んだ。エンジンテレグラフのベルが鳴り、操舵員が舵輪を回した。船が波に腹をさらして傾いていく。慌ただしく舳先を回す船の前に、黒々とした岩の山が現われた。船員たちが息を呑んだ。岩にあたって砕けた波がしぶきを散らし、しぶきを破って巨大な何かが躍り出て、風に向かって咆哮した。風が震える。稲妻を背にして、それが姿を現わした。巨大な頭が影を投げた。顔が見える。無数の触手がうごめいている。鉤爪のある手が雨をはらい、驚くほど無慈悲な目が船をにらんだ。船員たちは部署を捨てて逃げ惑い、悲鳴を上げ、耳をふさぎ、痙攣しながら床に倒れた。数日後、無人になって漂う船が発見される。船に乗り込んだ人々はあらゆる場所で狂気がおこなわれた痕跡を発見し、船長室では支離滅裂な言葉が書き散らされた航海日誌を発見する。

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2015年7月29日水曜日

Plan-B/ 荒廃

S7-E04
荒廃
 耕されていたはずの畑は荒れ野に戻り、ところどころにたたずむ木々はひどくねじれて、裸になった枝を地面に向かって突き立てていた。霞のような暗い影が土地を覆って色彩を潰し、生き物は光から見離されてあるべき輪郭を失っていた。こうなったのは、すべて隕石のせいだという。隕石が落ちたという場所には、いまでも近づくことができなかった。そこは濃密な瘴気に満たされていて、近づけば恐るべき幻影に取り囲まれて、果てのない悪夢に落ち込んで戻ることができなくなった。どうにか戻ったとしても正気を失い、善悪を見失い、憎しみを込めて世界をにらむ廃人になった。不気味な声でつぶやきながら背中を丸めて歩く廃人の群れが、いつも瘴気の縁をさまよっている。この荒れた土地のはずれの丘に登ると彼方にクレーターを見ることができた。地面が漏斗状にえぐり取られたその場所は、夜になると赤みを帯びた不思議な光で満たされた。見ていると空から何かが群れになって舞い降りてくる。化け物が蝙蝠のような翼を使って羽ばたいて、次々と地上に降り立つと不気味な声で鳴き交わした。風が吹くと腐臭が漂ってくる。化け物の声が耳に残る。闇がからだに染み込んでくる。目を閉じても、声が心に突き刺さる。誰もが穢れを感じて丘を下り、この荒れ果てた土地から逃げ出していく。

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2015年7月28日火曜日

Plan-B/ 遺産

S7-E03
遺産
 一度も会ったことのない叔父が、わたしに多額の遺産を残して死んだ。遺産を受け取るための条件がいくつか指定されていたが、金遣いの荒い女に捕まって、借金取りに追われていたわたしには条件を吟味している時間はなかった。弁護士が差し出すすべての書類に署名して、女を連れて叔父の屋敷に飛んでいった。恐ろしく陰気な屋敷だったが、署名したので改装することはできなかった。使用人が変人ばかりだったが、署名したので解雇することはできなかった。せめて料理人だけでも入れ替えてくれと連れの女が懇願したが、署名したので入れ替えることはできなかった。屋敷の地下には底の知れない穴があった。使用人の話によると、穴の中には叔父が太古の秘術を使って宇宙の彼方から呼び寄せた異形の神々が潜んでいた。わたしは署名をしていたので、この穴にも穴の中の神々にも手を触れることはできなかった。わたしは署名をしていたので、異形の神々を崇める司祭になった。わたしは署名をしていたので、異形の神々を崇める儀式をおこない、連れの女を生け贄に捧げた。署名をしたからというわけではなかったが、次々とやって来る借金取りも生け贄に捧げた。署名をしたおかげで、わたしの心は満たされていった。神々はわたしの呼びかけにこたえ、わたしは我が身を捧げる準備に取りかかった。

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2015年7月27日月曜日

Plan-B/ 弁護

S7-E02
弁護
 一か月足らずのあいだに行方不明者が三人出て、死体になって相次いで見つかったあと、警察は彼を逮捕した。彼が官選弁護人を拒否したので、彼の両親がわたしを雇って、わたしは彼に会うことになった。彼は警察ではなくて病院にいた。彼はドアが二重になった隔離室にいて、わたしは彼に会う前に防護服をつけなければならなかった。彼は寝台の上にいた。褐色をしたアメーバ状の物体が彼だった。吐き気をもよおす悪臭がした。揺れ動く膜の下から荒んだ顔が現われて、虹彩を失った目がわたしを見上げた。開いた口の中に何かが見えたが、それは人間の舌とはまるで異なる何かだった。彼はそれを動かして、苦労してかすれた声を絞り出した。自分は無実だと主張した。犯行があった時刻には一人で部屋にいたという。しかしそれを証明する手段はないし、仮にそれが事実だとしても、彼を見た瞬間にわたしの考えは決まっていた。弁護料は魅力だったが、怪物の弁護をすることはできない。

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2015年7月26日日曜日

Plan-B/ 血族

S7-E01
血族
 ランタンを高くかかげると、いくつもの陰気な顔が暗がりに浮かんだ。肖像画が並んでいる。代々の当主だ、と彼は言った。時代によって服装は違っていたが、どの顔も彼によく似ていた。歳頃も同じで、意外なことに老けた顔が一つもない。歳を取ると姿が変わる、と彼は言った。激変する、と彼は言った。呪われた血のせいで人間とは思えないような姿になる、と彼は言った。それがどんな姿か、見てみたいと思わないか。彼はわたしに向かってそう言ったが、わたしに即座に首を振った。うなずいたら、ろくなことにならないような気がしてならなかった。見せてやれるのに、と彼は言った。こいつらがどんな姿になったかを見せてやることができるのに、と彼は繰り返した。こいつらがいまどんな姿でいるのかを、地下に閉じ込められたまま、死ぬこともできずに獣のように餌を食らって、虚空に向かって何百年も吠え続ける、こいつらのあさましい姿を見せてやることができるのに。彼は叫ぶような調子でそう言って、ランタンの炎を吹き消した。

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2015年7月25日土曜日

アイアンクラッド ブラッド・ウォー

アイアンクラッド ブラッド・ウォー
Ironclad: Battle for Blood
2013年 イギリス/セルビア 108分
監督:ジョナサン・イングリッシュ

ロチェスター城の戦いから五年後、イングランドの混乱に乗じてスコットランドの諸侯がイングランドに侵入し、というか、なんとなく一族郎党でぞろぞろと現われたスコットランド人がとある城に攻めかかるので、城主の嫡男ヒューバートは城を脱出してキングストンを訪れて歴戦の勇士である従兄ガイに援軍を求めるが、歴戦の結果、虚無的になっていたガイはヒューバートに金を要求し、さらに三人を傭兵仲間に加えるとヒューバートとともに城に戻ってスコットランド人と戦う。 
序盤の展開は速いし、13世紀イングランドのウェザリングぶりもそれなりに楽しいし、血糊の量もけっこうなものだが、一作目に比べるとキャストに魅力がないし、寄せ手の規模がなんだかよくわからないし、動機も微妙にあいまいだし、戦闘シーンも長い割にはまとまりがないし、隙間を埋めるためなのか、余計なロマンスが盛り込まれていてこれがまた面白くない。 


Tetsuya Sato

2015年7月24日金曜日

スガラムルディの魔女

スガラムルディの魔女
Las brujas de Zugarramurdi
2013年 スペイン 114分
監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア

息子の養育権を元妻シルビアに奪われたホセは面会日に息子を巻き込んで貴金属店へ押し入り、仲間とともに金の指輪多数を強奪することに成功するが、逃走手段に手違いが発生したことでタクシーをハイジャックすることになり、妙に協力的な運転手の手柄で警察の追跡を振り切るとフランスを目指して北上するが、事件の知らせを聞いたシルビアがそのあとを追い、担当警部二人がシルビアを追い、そうしているうちにタクシーはバスク地方に入って魔女狩りで噂の高いスガラムルディの村へ迷い込み、一本道でヒッチハイクをしていた中年女性を拾って家に送り届けたところ、そこはすでに魔女の巣窟で、いつの間にか裸に剥かれた息子が口にりんごを押し込まれてオーブンにいるところを見たホセは息子を奪い返して脱出するが、戦利品を詰めた鞄を魔女の館に忘れたことに気づいて取りに戻り、鞄を見つけたところで本性を表わした魔女たちに一網打尽にされ、やがて数百人とも思える魔女の大集団が謎の儀式に取りかかり、フェミニズム的観点から男性優位性を否定し、男性優位にもとづく文明を滅ぼすために古代の母を呼び出しにかかる。 
序盤の強盗シーンから快調で、テンポの速いダイアログは気が利いていて、現代スペイン男たちがスペイン男とも思えないほど現代的に腑抜けなら、田舎の魔女たちは魔女ぶりを半端なく発揮して壁を走るわ天井を歩くわ空を飛ぶわ、捕まえた男どものからだをちぎることなど屁とも思わぬ残忍さで、そこへ古代の母が地響きを立てて登場すると、その造形のすさまじさに見ているこちらも尻込みする。力作であろう。ホセの元妻シルビアをやっていたマカレナ・ゴメスがどこかで見た顔だと思ったが、スチュアート・ゴードンの『ダゴン』で触手美女をやっていたひとであった。これはやはり向こう側の風貌をしている、ということか。


Tetsuya Sato

2015年7月23日木曜日

レジェンド・オブ・ヴィー 妖怪村と秘密の棺

レジェンド・オブ・ヴィー 妖怪村と秘密の棺
Viy
2014年 ロシア/ウクライナ/チェコ 111分
監督:オレッグ・ステプチェンコ

18世紀初頭、イギリス人の自称地理学者ジョナサン・グリーンは全財産を投じて製作した自動計測器付き馬車に乗って大陸へ旅立ち、カルパチア山脈のかなたで道に迷ってとあるコサックの村にたどり着くが、この村では一年ほど前、地主の娘パンノチカが湖畔で怪死し、事件の一部を目撃した娘ナストゥーシャは発狂、村の司祭は一切は魔物のしわざであると断定し、パンノチカの最後の言葉から旅の神学生ホマ・ブルートは地主の命令にしたがってパンノチカの遺体が安置された教会に閉じ込められ、それから三日三晩のあいだ祈りを捧げることになるが、その報酬として地主が用意した金貨千枚を預かった司祭は教会で起こったことについて口をつぐみ、それどころか魔物の恐怖を利用して村人を扇動し始めるので、地主はたまたま現われたジョナサン・グリーンに事件の解決を依頼する。 
ゴーゴリ『ヴィイ』のきわめてモダンな再映画化で、製作にウーヴェ・ボルがちょっと関わっているみたい。冒頭、主人公はカントリーハウスの一室で若い娘と同衾していて、その現場に踏み込んだ父親から逃れてそのまま冒険の旅に出発する。ちなみにその父親がチャールズ・ダンスで、娘の寝室に忍び足で現われて、不届き者を発見すると大喜びして召使いに「犬をけしかけろ」と命じるところがとても素敵。小さなコサックの村は陰謀まみれで、西欧で新興宗教立ち上げのノウハウを学んできたという司祭が悪の限りを尽くしている。というわけで話は18世紀的理性の勝利で終わるわけだけど、それはそれとして、という感じで、魔女の婆さんは神学生を抱えて空を飛ぶし、宴会の席では酔ったコサックが次から次へと怪物化するし、チョークで円を描いて身を守っているとヴィイが長大なまぶたを垂らして現われて、無数の目玉をあやつって居場所を言い当てる。映画としては雑な仕上がりだが、それなりに楽しい。キャラクターや雰囲気はとてもいいし、魔物の造形は半端ではなく恐ろしい。


Tetsuya Sato

2015年7月22日水曜日

シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア

シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア
What We Do in the Shadows
2014年 ニュージーランド 85分
監督:ジェマイン・クレメント

ニュージーランドのウェリントンに70人ほどのヴァンパイアが生息していて、人口40万人ほどの都市にそれはなんでも多過ぎだろうと思うわけだけど、安全を保証されたドキュメンタリー・クルーがそのヴァンパイアの生活を追った、というフェイク・ドキュメンタリー。ドキュメンタリー映画のための公的な基金らしき名前がタイトルにクレジットされているけれど、本当ならニュージーランド政府は洒落がわかるのであろう。なんとなくわびしくて発展性のない生活に追い込まれたヴァンパイア四人が一軒家をシェアしながら皿洗いの問題でもめたり、編み物をしたり、やはりヴァンパイアだから獲物を狩ったり、自分の部屋に引き込んで血をすすろうというところで家具やじゅうたんが汚れるのを心配して新聞紙を敷いたり、噛み間違えて大動脈を切断して大流血を引き起こしたり、妙に理性的でインテリ臭い狼男の集団と喧嘩をしたり、というような日常を、ほぼ脈絡なく、しかしアイデアだけはをとにかく惜しまずに盛り込んでいる。泥臭い映画だが、頭を絞っているところは無条件に評価したい。


Tetsuya Sato

2015年7月21日火曜日

ヒックとドラゴン2

ヒックとドラゴン2
How to Train Your Dragon 2
2014年 アメリカ 98分
監督:ディーン・デュボア

一作目から五年後、バーク島ではドラゴンとの生活がすっかり定着し、族長のストイックがヒッカップに族長の座を引き継ごうとしていたころ、当のヒッカップは自分にかかる重圧を嫌ってトゥースレスとともに近海の地図作りに飛び立って雲海のかなたに未知の島を発見し、近づいたところでドラゴン狩りの一味と遭遇、どうにか逃れて島に戻り、事情をストイックに説明するとドラゴンをあやつる凶悪な男ドラゴの存在が明らかにされ、ストイックはそのドラゴがバーク島へ攻め寄せてくるという予感から防戦準備を整えるが、ヒッカップはドラゴを説得できると信じてトゥースレスとともに飛び立ち、途中、謎のドラゴンライダーと出会って謎の島に導かれ、謎のドラゴンライダーの正体を知ってヒッカップは戸惑い、謎の島の奥にドラゴンの楽園を発見してドラゴンライダーの真意を知り、そこへヒッカップを探してストイックが現われ、ドラゴンの大量捕獲をねらうドラゴも現われ、ドラゴが繰り出したアルファドラゴンによってドラゴンは心を支配され、作戦を達成したドラゴはバーク島をねらって進むので、ヒッカップはドラゴを追う。 
これが劇場公開されないのはいったいどういうことなのか。ダイナミックな飛行シーンは言うまでもなく、水や雲の細密な動き、カラフルなドラゴンの群れ、壮絶なまでに巨大なアルファドラゴンの戦いと目を奪うシーンがいっぱいで、やはり劇場のスクリーンで3Dで見たかった。


Tetsuya Sato

2015年7月20日月曜日

インサイド・ヘッド

インサイド・ヘッド
Inside Out
2015年 アメリカ 94分
監督:ピート・ドクター

11歳の少女ライリーはミネソタで両親とともに幸福な生活を送っていたが、父親の仕事の都合でサンフランシスコに移ることになり、引っ越してみると新しい家は陰気な上に引っ越し荷物は誤ってテキサスへ送られて届かない、という有様で、それでもライリーの頭の中の司令室にいる「喜び」はライリーの心を前向きに動かそうと試みるが、「悲しみ」がうっかりライリーの記憶に触ったために喜ばしい記憶がライリーの悲しみを呼び起こし、これはいけないと司令室ですったもんだしているうちに事故が起こって「喜び」と「悲しみ」が司令室から記憶野の端に放り出され、残された「怒り」「むかむか」「びびり」は「喜び」と「悲しみ」抜きでどうにか事態を収束しようとするものの、ライリーの心は荒むばかりで頭の中では天変地異級の異変が始まり、「喜び」と「悲しみ」は広大な記憶野を越え、抽象的認知領域を越え、潜在意識にも潜入し、司令室に戻るための旅を始める。 
ここのところ低調が目立ったピクサー作品だが、一気に復活したように見える。アニメーションでしか表現できないことに具体的かつ誠実に取り組んでいて、現実世界でライリーを取り巻く状況がまず丹念に描かれ、ユーモアと感動がバランスよく配置されていて、脳内アクションもきっちり盛り込まれている。頭の中のキャラクターの動きは司令室から記憶野で働く周辺キャラクターまで、なにやら大脳生理学的に正しく見えるし、その過程では短期記憶から長期記憶への選別がおこなわれ、不要になった記憶は次々と廃棄され、にもかかわらずいりもしないばかげた記憶が記憶野から司令室へ執拗に送られていく。つい最近まで鬱病の危険水域に足を浸していた観客としては、「喜び」と「悲しみ」を失った虚ろさは心理的にも非常に納得できる表現になっていて、そして潜在意識に隔離されたピエロは当然ながら怪物であり、ブロッコリーもまた怪物的に恐ろしい。いつも真っ青でうじうじしている「悲しみ」がかわいい。
Tetsuya Sato

2015年7月19日日曜日

Plan-B/ 視線

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視線
 いつもと同じ時間にいつもと同じ店に入ると、そこに必ず彼女がいる。離れた場所に腰を下ろして、彼女の姿を盗み見て、美しい、と彼は思う。ほんとうの美の基準からすれば、もしかしたら口が少しばかり大きいが、ほんとうの美の基準からすれば、もしかしたら鼻が少しばかり大きいが、それでも美しい、と彼は思う。美しさに気圧されて、近づくことができなかった。近づくことができないので、声をかけることもできなかった。せめて視線を交わすことができるなら、と彼は思う。期待を込めて待ち構える。彼女の視線が不意に動いて、彼の上を素通りした。彼の姿は彼女の目には入らない。それでも期待を込めて待ち構える。彼女の視線がまた動いて、彼の上を素通りした。彼は静かに息をもらして、次の機会を待ち構える。やがて彼女は勘定を済ませて立ち上がって、よく似合うコートに袖を通した。バッグをすばやく肩にかけて、出口に向かって進んでいく。彼女の後ろ姿を見送りながら、また明日、と彼は思う。

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2015年7月18日土曜日

Plan-B/ 義父

S6-E32
義父
 わたしは異郷の地を旅して、そこで激しい恋に落ちた。わたしは情熱のほむらに焼かれて彼女を求め、ただちに求婚者となって彼女の父親の家を訪れたが、そこに彼女の父親はいなかった。父親は川にいるということだったので、わたしは父親を探しに川へいった。父親はたしかに川にいたが、わたしが話しかけようとするといきなり水に飛び込んで鰐に変身した。わたしがかまわずに話を続けると水を叩いて河馬に変わり、わたしが決意を告げると水鳥になって舞い上がってわたしの頭に糞を落とした。わたしは川辺から離れて物陰に隠れた。息をひそめて見ていると父親は水鳥から蛇に変わり、楽しげにとぐろを巻くと水色の亀に変身した。わたしはその瞬間に前に飛び出し、甲羅を掴んで父親を捕えた。すると父親は棘の生えた蜥蜴に変わり、あるいは毒を吐き出す蛙に変わり、そうかと思うと神とも見紛う美青年に変身したり、女神もうらやむ絶世の美女に変身したり、鼻水を垂らした赤ん坊になったり、自我に毛を生やしたいけ好かない十代の少年になったり、杖を振って暴れる三白眼の老人になったりしたが、わたしが決して手を放そうとしなかったので、とうとう根負けして父親の正体を現わした。わたしは彼女の父親を川原に叩き伏せて決断を求め、許しを得て彼女を我が物とした。彼女はわたしのよい妻となった。しかし彼女の父親は、いまになってもわたしに会うことを拒んでいる。

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2015年7月17日金曜日

Plan-B/ 巨人

S6-E31
巨人
 空から巨人が降りてきて、目から光を放って地上を照らした。巨人は光とともに進んで山をまたぎ、都市をまたぎ、海を渡った。光のせいで巨人の顔を見ることはできない。巨人の前は光で満たされ、巨人の後には果てのない虚無が広がった。

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2015年7月16日木曜日

Plan-B/ 罰

S6-E30
 取り柄のない村で生まれた若者が七つの山と七つの川の向こうの大きな町を訪れて、そこで王のように迎えられた。王は話を聞いて憤った。王でなければ、王のように迎えられてはならなかった。王は兵士を送って若者を捕え、王のように迎えられた罪を咎めた。しかし若者は罪を認めようとしなかった。そこで王は兵士に命じて、鞭を使って若者を打たせた。それでも若者は罪を認めようとしなかった。王はさらに憤って大きな罰を若者に与えた。若者は大きな罰を甘んじて受け、大きな憐れみを王に与えた。

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2015年7月15日水曜日

Plan-B/ 対話

S6-E29
対話
 取り柄のない村で生まれた若者がたった一人で山に登って、山頂に立って話を始めた。多くのひとが遠くからその様子を見て、いったい何を話しているのかといぶかった。話の中身を確かめるために山に登って若者を囲み、何を話しているのか、とたずねたが、若者は目を怒らせて、あなたがたに話しているのではないと言った。

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2015年7月14日火曜日

Plan-B/ 病人

S6-E28
病人
 取り柄のない村で生まれた若者が七つの村の向こうにある大きな町を訪れた。そこには多くの病人がいて、着の身着のままの姿で長い壁に沿って横たわって、残された命をわずかな希望でつないでいた。その先に用があった若者は壁に沿って軽い足取りで進んでいって、長く伸びた病人のからだにつまずくとそのたびに顔をしかめて、立て、歩け、と罵った。若者に罵られた病人は立ち上がって歩き始めた。脚がすっかり萎えた者も、瀕死で身動きできない者も、次々と立ち上がって歩き始めた。その様子を見たほかの病人が若者に向かって手を差し伸ばして、どうか自分を罵ってくれと懇願した。しかし若者は首を振ってこう答えた。立て、歩け、と罵るかわりに、あなたがたは癒された、とわたしは言う。なぜならば、立て、歩け、と罵られるよりも、癒された、と言われるほうが心に容易だからである。

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2015年7月13日月曜日

Plan-B/ 悪魔

S6-E27
悪魔
 取り柄のない村で生まれた若者が荒れ野へ出かけていくと、どこからか悪魔が現われて若者を言葉で誘惑した。すると若者は古い皮の袋の口を広げて、ここに入れと悪魔に言った。悪魔が袋に入ると若者は袋の口を固く縛った。袋から出られなくなったことに気がついて悪魔は言葉を使って脅したが、若者は悪魔の言葉におびえるかわりに袋を勢いよく振り上げて手近の岩に叩きつけた。何度も何度も叩きつけると袋の中の悪魔が根を上げた。言葉を連ねて助けてくれと懇願するので若者は皮の袋の口を開けた。悪魔はすぐさま逃げようとしたが、若者はすばやく手を伸ばして悪魔を捕え、少し残していけ、と言って悪魔の片足をねじ取った。悪魔は若者の手から逃れ、若者は悪魔の足を袋に入れた。若者は荒れ野から出て、町に戻る道の途中で袋を捨てた。袋の中では悪魔の足が暴れていた。町の人々がそれを見て、なぜ捨てるのか、と若者にたずねた。すると若者は捨てたばかりの袋を踏んでこのように言った。あなたがたも悪魔から担保を取ろうとしてはならない。

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2015年7月12日日曜日

Plan-B/ 罪人

S6-E26
罪人
 取り柄のない村で生まれた若者がとある町を訪れて、そこで罪人ばかりを招いて宴会を開いた。心の正しい人々はこの話を聞いて若者のおこないはよくないと考え、若者におこないを改めさせようと考えて、宴会の場へ出かけていって若者を囲んだ。罪人を招くべきではない。心の正しい人々が若者に向かってそう言うと、若者は憤ってこのように言った。もし罪人を追い払ったら、誰が罪人の席に座るのか。心の正しい人々はこれを聞いて若者のおこないの正しさに気がつき、それぞれの家に帰っていった。

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2015年7月11日土曜日

Plan-B/ 善人

S6-E25
善人
 取り柄のない村で生まれた若者が荒れ野を渡る長い道に入っていって、軽い足取りで歩き続けて谷の手前で一人の旅人を追い抜いた。そのまま道に沿って先へ先へと進んでいくと、前方から盗賊の一味がやって来るのが目に入った。若者はやり過ごすことにして手近の岩に身を潜め、岩の陰から様子をうかがっていると先ほど追い越した旅人が荷物を背負って現われて、逃げ出す間もなく盗賊の一味に囲まれた。盗賊たちは旅人に襲いかかって身ぐるみを剥ぎ、おびえてうずくまる旅人に殴る蹴るの暴力を加えた。盗賊たちが立ち去っても、旅人はその場で腹を押さえて転がっていた。若者がそのまま様子をうかがっていると、商人風の男が現われて、横たわる旅人の横を素通りした。さらに様子をうかがっていると、今度は貴人風の男が数人の供を連れて現われて、横たわる旅人の横を素通りした。続いて兵士の一団が現われ、その後には王族の一団がにぎやかな行列を組んで現われたが、どれもが横たわる旅人の横を素通りした。このように、と若者は心の中でつぶやいた。道に倒れた者は救いを求めて、善人の訪れを待つことになる。

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2015年7月10日金曜日

Plan-B/ 漁師

S6-E24
漁師
 取り柄のない村で生まれた若者が湖畔の村を訪れて、そこで若い漁師たちをそそのかした。そそのかされた漁師たちは網を捨てて、近隣で議論を吹っかけてまわったが、間もなく長老たちににらまれたので湖の対岸に渡ることにした。湖を渡っているうちに風が吹いて嵐になり、漁師たちの小舟は大波にもまれた。漁師たちは帆を下ろして、揺れる小舟を波に預けた。それぞれに船縁を掴んで死の恐怖を味わっていると、取り柄のない村から来た若者が小舟の艫で立ち上がった。小舟には漁師たちだけで乗り込んだので若者がそこにいるはずがなかったが、漁師たちは若者を見て驚くよりも若者の命を強く案じて、若者に向かって腰を下げろ船縁を掴めと声をかけた。ところが若者は立ち上がったまま、自分がいかに漁師たちの目を欺いて小舟の艫に隠れたか、その経略について仔細にわたる説明を始めて、嵐が過ぎて小舟が対岸にたどり着くまで口を閉ざそうとしなかった。漁師たちは若者のこのふるまいを見て、これは大きな取り柄であると感じ入った。

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2015年7月9日木曜日

Plan-B/ 泥

S6-E23
 泥の中に魂がいた。わたしはそれを拾い上げて皮膚を与え、顔を与えた。肉を与え、からだを与えた。肉はわたしの敵となった。

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2015年7月8日水曜日

Plan-B/ 復活

S6-E22
復活
 男は死んでいた。裸体の上に粗い麻の屍衣を巻かれて穴の底に横たわり、穴の底の石に触れて石のように凍えていた。鼓動は消え、膨れ上がる暗闇が命の名残りを吸い尽くした。男は去り、男とともに多くのものが立ち去って、そこにあるのは骸となった。一切が虚しくなり、動かずに闇に沈んでいた。かすかに、朽ちていく音が聞こえてくる。どこからか、滅びのにおいが漂ってくる。そこへ復活を命じる声が、光をまとって轟いた。光は彼方へ尾を引いて、立ち去ったものを呼び戻した。からだが鼓動を取り戻し、屍衣の下から闇が逃れた。命の音が響き始めた。満たされていく。浮かび上がる。今はもう、石の冷たさを感じている。手が動き、足が動き、ついに起き上がって麻の屍衣を剥ぎ取った。死が振り落とされた。男は生きていた。

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2015年7月7日火曜日

Plan-B/ 罪

S6-E21
 衝動に負けて罪を犯した男が穢れを受けて町を追われた。頼れる者がなかったので荒れ野に逃れて虫を食らい、花の蜜を舐めて生き延びた。しかし、ただ生き延びただけで町へ戻る算段はない。男は衝動に負けた自分を呪い、自分に与えられた運命を嘆いた。渇きをもたらす荒れ野にたたずんで、尽きることを知らない嘆きの言葉に身を浸した。すると目の前に一人の若者が現われた。ここはひとの心の荒野である、と若者は言った。わたしはここにいる、と若者は言った。これまでもいたし、これからもいる、と若者は言った。わたしはあなたからあなたの罪と穢れを取り除こう、と若者は言った。男は若者の前にひざまずき、若者は男の肩から罪と穢れを取り除いた。あなたの荷は下ろされた、と若者は言った。しかしあなたはわたしがあなたからあなたの罪と穢れを取り除いたことを誰かに告げようとしてはならない。そう言い残して若者は立ち去り、男は運命の軛から解かれて町へ帰った。町の人々は驚いた。罪と穢れからどのようにして逃れたのかを知りたがった。男は衝動に負けてすべてを告げ、罪と穢れを抱えた多くの者が若者を探して荒れ野へ進んだ。

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2015年7月6日月曜日

Plan-B/ 酒

S6-E20
 宴がたけなわを迎えた頃、女主人は女中をやって酒の残りを調べさせた。女中が戻って酒の残りが少ないことを伝えると、女主人は親戚の女に事情を話して追加の酒を得る策を求めた。休日なので店は戸を閉ざしていたし、近所を回って得た酒はすでに客に出していた。もはや手がない。女主人がそう言うと、親戚の女は案ずることはないと請け合って、客の中にいた息子を呼んだ。そして息子に追加の酒を確保するように命じると、息子は仲間とともにどこかへ出かけていって追加の酒を運んできた。運ばれてきた酒を見て、女主人は喜んだ。まるで奇跡が起こったようだ、と言ったので、親戚の女は激しく首を振り、その言い方ではまるで異教徒のようだ、とたしなめた。

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2015年7月4日土曜日

アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン

アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン
Avengers: Age of Ultron
2015年 アメリカ 142分
監督:ジョス・ウェドン

ロキの杖を手に入れたハイドラがなにやら秘密の研究をおこなっているということでアベンジャーズがハイドラの秘密基地を急襲して杖を押収し、スタークは杖を分析して人工知能のモデルを発見、これはウルトロンに使えるということでマッドサイエンティスト的な抑制の乏しさから早速プログラミングに取りかかったところ、スタークの不在中にウルトロンが勝手に覚醒してジャーヴィスを攻撃、マーク42を改造して肉体を確保するとロキの杖を奪って人類殲滅を宣言し、アベンジャーズはワンダとピエトロの双子を仲間に加えてウルトロンの野望に挑戦する。 
スタークがペッパーとの関係で落ち着き始めていて、ナターシャもバナーに関係を求めて落ち着く方向へ傾いて、ホークアイに至ってはすっかり落ち着いている、という状況では一作目のよい意味での粗放さは現われない。アベンジャーズという強引なまとまりに対してキャラクターの拡散が目立つ結果になっている。小ネタはいっぱい入っているし、ウルトロンのどことなくロキなキャラクターも悪くないし、アクションシーンもそれぞれに頑張って作られているものの、にもかかわらず勢いを得られないというのは小市民的な願望がプロットにまとわりついているせいであろう。視覚的な豊かさを含めて言うまでもなく水準以上の作品ではあるものの、甚だ勝手な話で恐縮だが、こちらが期待する水準には達していない。 

Tetsuya Sato

ダバング 大胆不敵

ダバング 大胆不敵
Dabangg
2010年 インド 126分
監督:アビナフ・シン・カシュヤップ

インド北部ウッタル・プラデーシュ州のラールガンジという町にパンデーという少々強欲な地主がいて、その妻の連れ子チュルブルとパンデーとのあいだにできたマカンチャンドの兄弟は察するところパンデーが実の子マカンチャンドのほうに手間をかけたこともあって幼いころからいがみあうことになり、21年後、チュルブルは町の警察で警部になって銀行強盗のアジトに単身踏み込んで一味を締め上げて銀行から奪った金を奪い取り、部下に報告書の捏造を命令し、犯人追跡中に見初めた娘ラッジョーには図々しく迫ってセクハラをするという見たまんまの悪徳警官であったが、にもかかわらず正義の味方で、市会議員への立候補を目指す若手政治家チェディー・シンはチュルブルの職権乱用を非難するが、実はこのチェディー・シンこそが悪の元締めで、州内務大臣に近づく一方で酒の密造をおこない、政治資金を集めるために強盗を指示するという具合なので、州内務大臣はチェディー・シンを片づけるためにチュルブルに肩入れし、チュルブルは証拠を捏造してチェディー・シンを陥れ、するとチェディー・シンはパンデーの工場を焼き、倒れた父親の治療費に悩むマカンチャンドを仲間に引き入れてテロの片棒を担がせ、さらにチュルブル殺害を指示するので恐れを感じたマカンチャンドはチュルブルに一切を告白し、チュルブルはチェディー・シンとの対決に臨む、という合間に恋をして結婚もして歌って踊る。 
ふつうなら3時間でやる内容を2時間強に圧縮していて、そのせいなのか、やってることはいつもと同じと言えば同じなのに妙に密度が濃くて、画面の圧力が異様に高い。というわけで見ごたえはあるが、少し疲れる。それとこの地方権力の腐敗ぶりはちょっとすごい。


Tetsuya Sato

2015年7月3日金曜日

ラスト・デイズ・オン・マーズ

ラスト・デイズ・オン・マーズ
The Last Days on Mars
2013年 イギリス/アイルランド 99分
監督:ルアリー・ロビンソン

6か月にわたる火星探査のミッションが残り19時間ほどになったところで探検隊の隊員の一人が鉱物サンプルの中にバクテリアを発見、サンプルを確認するために採掘場へ出かけていったところ、突如として地面が割れて地中に落下する事故が起こり、隊長以下が死体を回収する準備を進めていると現場の見張りに残した一人が連絡を絶ち、割れ目に降りてみても死体が見つからない上に、さらに探すと徒歩で基地まで戻った痕跡が発見される。 
探検隊のシステム主任がリーヴ・シュレイバー、隊長がイライアス・コティーズ、ほかに『サボタージュ』でアトランタ市警の刑事をしていたオリヴィア・ウィリアムズ。 火星探検基地やローバーなどのセットがよく出来ていて、小道具なども含めて雰囲気はあるが、すぐに停電する、無線が途絶える、連絡が悪いといったところでサスペンスを盛り上げる手法は好みではない。SF系ゾンビ映画としては破格の予算が組まれているし、相手がバクテリアだということで抗生物質で戦うあたりは笑えたし、とりあえず水準はクリアしていると思う。 


Tetsuya Sato

2015年7月2日木曜日

サボタージュ

サボタージュ
Sabotage
2014年 アメリカ 109分
監督:デヴィッド・エアー

DEAの捜査官ジョン・ウォートンは麻薬組織の資金を押収するために自分の特殊作戦班を率いて麻薬組織のアジトに突入するが1000万ドルを下水に隠して残りを爆破し、下水に隠した金を取りに戻ってみるとその金は消えていて、DEAはジョン・ウォートンとその部隊が押収金を着服したのではないかと疑いを抱いて調査を始め、DEAの上司同僚はジョン・ウォートンに嫌がらせを繰り返すが、半年ほど経過したところで調査が終わって疑いは事実上棚上げされ、現場に復帰したジョン・ウォートンは特殊作戦班の訓練を再開するとその特殊作戦班の隊員が一人また一人と殺害され、アトランタ市警殺人課の刑事が捜査に動き出すが、特殊作戦班の隊員は捜査への協力を拒み、DEAも官僚機構の壁を築くので、刑事はなにやら協力する気配を見せるジョン・ウォートンに接近する。 
ジョン・ウォートンがシュワルツェネッガー、その部課がサム・ワーシントンにテレンス・ハワード。シュワルツェネッガーは悪くないし、刑事役のオリヴィア・ウィリアムズもなかなかに魅力的だし、血糊の量と人体破壊ぶりも印象に残るが、キャラクターやプロットのこなれが悪く、流れも悪い。


Tetsuya Sato

2015年7月1日水曜日

Plan-B/ 虻

S6-E19
 南の風に乗って虻の群れがやって来た。胴体がオレンジほどもある大きな虻が群れになってやって来て、羽音をかまびすしく立てながら、女たちの留め針のような大きな針を牛や馬に突き立てた。山を越え、野を下り、我が物顔で庭を飛び回って鶏を刺し、家の中に飛び込んで男を刺し、女を刺し、悲鳴を上げる子供を刺し、命乞いをする老人を刺した。この虻に刺されると、鶏も牛も馬も人間もたちまちのうちに姿が変わって世にもおぞましい怪物になった。虻の群れは風に乗って北へ飛び去り、あとに残された怪物たちは色とりどりの角や尾や触角を振り、空を見上げて涙を流した。

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