2015年6月10日水曜日

Plan-B/ 妖精

S6-E03
妖精
 湖畔に佇みながら樹齢を重ねたユーカリの樹が幹をわずかに震わせた。枝の先で葉が揺れ動き、根元から規則正しい鼓動の音が伝わると、幹の下から上へ切れ目が走り、樹皮が大きくまくれ上がった。開いた樹皮のあいだから黄金色の髪の娘が顔を出し、外に向かって手を差し出した。どこかまどろむような足取りで樹から抜け出し、外界の色に目をやりながら頬に指を伝わせた。その目には無知と無垢が浮かんでいた。鳥は娘を恐れなかった。獣も娘を恐れなかった。娘は岸辺に寄って白い足を水に浸した。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.