2015年5月28日木曜日

Plan-B/ 凪

S5-E26
 外洋に出て二十日目に船は凪に捕まった。その小さなスクーナー型帆船はマストから帆を垂らしたまま南海の太陽に焼かれていた。水の蓄えが残酷なほどの早さで減っていった。水が尽きると弱い者から狂気の発作に取り憑かれた。ある者は海に飛び込んだ。ある者は自分の血管を開いて血をすすった。またある者は他人の血管を開いて血をすすった。最後に一人が生き残った。風がそよいだ。マストが風を受けて膨らんだ。船が動き、やがて波を立てて進み始めた。彼方に港を認めたとき、たった一人の生き残りはピストルを顎にあてがって引き金を引いた。

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