2015年4月25日土曜日

インヒアレント・ヴァイス

インヒアレント・ヴァイス
Inherent Vice
2013年 アメリカ 148分
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン

トマス・ピンチョン『LAヴァイス』(2009)の映画化。前作『ザ・マスター』の感想でわたしは「次回作は静物を二時間映しておしまい、ということになるのではないか、と実はちょっと恐れている」と書いたが、幸か不幸か(たぶん不幸にして)そういうことにはなっていない。独りよがりで精彩に乏しいピンチョンの世界が全編にわたって薄っぺらく貼りつけられていて、独りよがりで精彩に乏しくて薄っぺらであるという点においてきわめてピンチョン的である一方、映画的であろうとする努力は完全に放棄されている。『インヒアレント・ヴァイス』が仕上がりがこうであることから逆算すると、実は『ザ・マスター』もすでにそうであった可能性も疑いたくなる。ピンチョンに対する批評性が昂じた結果、こうなっているのではないかといちおう疑ってはみたが、その可能性は乏しいと思う。この恐ろしく空虚な仕上がりは映画的な再現よりも「文学的な」かつ直接的な再話を試みた結果であろう。いずれにしてもこちらは寝ぼけたようなダイアログが投げ出された冒頭数秒で「ヒッピーが、ヒッピーが来る」と拒絶反応を起こしていた。この二時間半はかなり長い。 

追記:造形性でしか判断しない、というこちらの習性と、意図的に造形性が放棄されているように見えるこの映画の性格が噛み合っていないという可能性を考えている。つまり見た目の退屈さは別としても、見方を間違えているのではないか、という可能性を疑っている。画面の作りにしても俳優の演技にしても、とにかくどうにも釈然としない。立体性に欠けた絵は過去を遠くに見ているのか。まるでホームムービーの中の一般人のような演技は何を意味しているのか。もしかしたらこれはピンチョンという型を借りた反映画的な試みなのか。あれやこれやと考えるけど、どうにも始末が悪くて困っている。


Tetsuya Sato