2015年3月11日水曜日

Plan-B/ 穴

S3-E30
 嵐の夜に土砂崩れが起こって山裾の古い寺院を押し流した。救難活動のために現地に入った人々は剥き出しになった礎石の下に穴があるのに気がついた。礎石を動かすと大きな穴が現われた。見下ろして、どれほど目を凝らしても底が見えない。強力なライトを使っても光が底に届かない。長いロープを下ろしてみた。かなりの深さまで下ろしたところで、なにかがロープを引き始めた。引き上げようとすると抵抗がある。不意に抵抗がなくなって、たぐり寄せてみるとロープの先が切られていた。ライトをつけたカメラが下ろされた。ケーブルを介して映像が送られてきた。カメラが湿った岩肌に沿って降りていく。映像がいきなり途切れ、あわててカメラを引き上げる。ケーブルが切断されて、カメラは消えてなくなっていた。人々は穴を埋める方法について議論を始め、その一方で洞窟探検の専門家を招いて調査方法についての意見を求めた。探検家が志願したので穴にひとを送るための準備が始まった。さまざまな機材が取り寄せられ、緊急の場合に備えて医療班とヘリコプターが待機した。クレーンが探検家を吊り上げた。探検家は防護服を着てヘルメットをかぶり、頑丈なハーネスでからだをケーブルの先に固定している。探検家が親指を立てたのを合図にケーブルが穴に下ろされていく。無線による交信が始まり、ヘルメットのカメラが湿った岩肌を映し出した。間もなく無線に雑音が混じり、カメラの画像が乱れ始めた。探検家が悲鳴を上げている。クレーンの作業員に指示が飛び、ウィンチが音を立てて回転する。探検家が現われた。頭を垂らして、腕をぐったりと投げ出している。胸から下がなくなっていた。人々は思わず顔をそむけて、そこで気がつく。地面がかすかに揺れている。かすかな揺れはすぐにはっきりとした揺れに変わっていく。穴の上でクレーンのアームが揺れていた。穴から甲高い叫びがほとばしり、それと同時に暗い粘液のかたまりが盛り上げるように現われた。無数の口を動かしながら、獲物を求めて黒い触手を振りまわした。

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