2014年11月21日金曜日

Plan-B/ 手

S1-E06
 ペントハウスの広いテラスをバスローブをまとった女が歩いていく。白ワインが入ったグラスを手に黒大理石を貼ったテラスを裸足で横切り、爪先をジャグジーに浸して湯の温度を確かめた。グラスをジャグジーの脇に置いてバスローブを脱ぎ捨て、泡の立つ湯にからだを滑らせるとグラスに向かって手を伸ばした。琥珀色に近い液体を口にふくんで目を閉じる。ヘリコプターの爆音が近づいてくる。グラスを置いてからだを伸ばした。ヘリコプターが近くにいる。銃声のような音も聞こえる。とてもうるさい。なにかが潰れる音を間近に聞いて目を開いた。テラスを囲むステンレス製の手すりが握りつぶされていた。毛むくじゃらの巨大な手が手すりを握りつぶしていた。女はからだを起こしてジャグジーから飛び出した。それと同時に手が動いた。ジャグジーをつかんで大理石の床から引き剥がした。女は振り返らずに走り続ける。ペントハウスに飛び込んで、そこで初めて息をもらした。

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