2014年10月8日水曜日

いたちあたま (2)


 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちがぼくに言った。
 助けを求める声が聞こえる。
 灰色のいたちが繰り返した。

 荒れ野のはずれの暗い墓地に、誰かが生きたまま埋められていた。冷たい土の底に沈んだ棺桶のなかで、湿った闇に閉ざされた場所で、爪で板をひっかいて、指という指を血まみれにしながら助けを求めて叫んでいた。叫びは土に吸い込まれた。土は叫びをたくわえて、決して漏らそうとしなかった。それでも板をひっかいて、助けを求めて叫び続けた。乾いた喉で叫び続けて、口のなかに血があふれた。

 あれは自分が生きていることに知らずにいた。
 森の老人はそう言った。
 埋められるまで知らずにいた。
 森の老人はそう言った。
 埋められてから気がついた。
 森の老人はそう言った。
 出口をなくして気がついた。
 森の老人はそう言った。
 だからあれには出口がない。
 森の老人はそう言った。



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