2014年9月29日月曜日

素晴らしき戦争

素晴らしき戦争
Oh! What a Lovely War
1969年 イギリス 144分
監督:リチャード・アッテンボロー

ヨーロッパ諸国の元首、外相などがテントに集まってセルビア問題について語り、記念撮影などをしているとカメラマンがオーストリアの皇太子夫妻に赤いひなげしを一輪ずつ渡し、これによって皇太子夫妻は象徴的に暗殺されて、その場にいた元首、外相は開戦の可能性について言葉を交わし、ブライトンの桟橋ではキッチナー&ヘイグの看板を掲げた店が「第一次大戦」の出し物を開いて無名の男女を呼び集め、ドイツがベルギーに侵攻したころ、劇場ではいかがわしいレビューが始まって歌姫が若者を駆り集め、集められた若者たちは前線へ送られ、戦場における犠牲者が数となって看板に大きく貼り出され、軍の高官たちが優雅に舞踏会へ繰り出す一方、戦場では兵士たちが泥にまみれ、中間地帯でドイツ兵と親睦を深め、ローマ法王は聖金曜日の肉食を大目に見ると約束し、ラビは前線でブタを食べることを大罪にしないと約束し、ミサに集まった兵士たちは身も蓋もない讃美歌を歌い、戦場で兵士に分け与えられる赤いひなげしは一本一本が死亡フラグとなり、野戦病院は地獄の到来を予感し、ソンムの会戦が最終段階を迎えて各国が講和に向かって動き始めたころ、野は白い十字架によって埋め尽くされる。
ジョアン・リトルウッドによるミュージカルの映画化で、空間はきわめて象徴的に配置され、状況はしばしば抽象化され、戦場のシーンはあるものの、いわゆる戦闘シーンは一度も登場しない。そのかわりに第一次大戦中に兵士たちが戦地で歌っていた歌が豊富に引用され、そのむなしいまでのナンセンスが心理的なリアリズムをもたらしている。ポーカーフェイスの『モンティパイソン』だと言えばわかりやすいかもしれない。初監督のリチャード・アッテンボローは非常に丹念な仕事をしており、演出はもちろん美術、衣装面での手抜かりもない。前線から銃後まで、精密な風俗描写には感心した。構成が構成だけにはっきりとした主人公はいないし、兵士となって前線に立つのはおもに地味な俳優だが、ゲストスターの顔ぶれがものすごくて、冒頭でポアンカレの役でイアン・ホルムが顔を出すし、オーストリアの宰相はジョン・ギールグッドだし、イギリスの元帥はローレンス・オリヴィエ、ヘイグにジョン・ミルズ、兵士を兵役に引きずり込む美貌の歌姫はマギー・スミス、反戦婦人運動家はヴァネッサ・レッドグレーヴ、パーティシーンのちょい役でダーク・ボガード、さらにジャン=ピエール・カッセルがフランス人大佐に扮して歌って踊るという具合で、そういう細部も見ごたえがある。 

Tetsuya Sato