2014年12月31日水曜日

Plan-B/ 偽者

S2-E08
偽者
 彼女は夫の変化に気がついた。初めは些細なことのように思えたが、そのうちに夫が夫ではないような気がしてきた。まず用足しのあとで便座を下げておくようになった。下着一枚の姿でいるのを見かけなくなり、煙草をやめ、率先して家事をするようになった。夫が変化して以来、台所や風呂場がぴかぴかになった。そして驚いたことに彼女に愛をささやくようになり、ただささやくだけではなくて実践もした。夜になると庭に出て、星に向かって奇妙な言葉をつぶやくことを除けば彼女の夫は本当に完璧な夫だった。だから彼女はピストルを買った。ある晩、夫がソファーに座ってくつろいで、あれやこれやと週末の計画を話しているとき、彼女はうしろから忍び寄って引き金を引いた。至近距離で発射された.38口径の弾丸は夫の頭を貫通して額に大きな穴を開けた。穴から飛び出してきたのは血でもなければ脳漿でもなかった。得体の知れない機械の破片と得体の知れない液体だった。ほらやっぱり。彼女は悲しそうに口を歪めた。

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2014年12月30日火曜日

Plan-B/ 馬

S2-E07
 春の嵐とともに海から馬が上がってきた。見上げるような黒馬が浜辺に蹄の跡を残し、たてがみを風に揺らしながら、引き上げられた船をつぶした。玉の雨を率いて町を駆け抜け、音を立てて道を砕き、雲に煙る荒れ野へ走って丘に登ると、振り上げた前脚で天に挑んで声を高く響かせた。嵐が過ぎ去ったあと、まばゆい光が丘を照らした。

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2014年12月29日月曜日

Plan-B/ 貨物

S2-E06
貨物
 雨に濡れた高速道路で黄色いスポーツカーがスリップを始めた。停まれないまま中央分離帯を飛び越えて、対向車線を突進してきたSUVに激突した。SUVに後続のセダンが激突し、そのうしろにいたトレーラートラックが衝突を避けようとしてハンドルを切ると、長大なコンテナを載せたトレーラーが惰性で前へ押し出されて中央分離帯を乗り越えた。トレーラーにバスがぶつかり、バスに小型トラックがぶつかった。双方の車線で十数台の車が衝突を起こし、怪我人が助けを求めて声を上げた。バスに乗っていた一人の女が額から血を流しながらトレーラーを指差した。コンテナの壁が破れて、中からなにかが這い出してきた。残忍そうな目つきの小型の恐竜が現われて、あたりに目を配りながらコンテナから飛び降りた。そのあとにまた一匹、そのあとにもまた一匹。恐竜の群れがバスを囲んだ。鋭い爪で乗用車の屋根を引っ掻き、小型トラックの窓を破った。衝突で大破したスポーツカーに近寄って、血まみれになったドライバーに黄色い牙を押し当てていった。

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2014年12月28日日曜日

Plan-B/ 皮

S2-E05
 黒いスーツにサングラスってやつが横断歩道を渡っていたんだ。そこへ配送用のバンが信号無視で突っ込んできて、そいつを数メートルも跳ね飛ばした。すごかったね。そいつは車道に叩きつけられて、突っ伏したような具合に転がった。スーツが裂けて、首が曲がって、脚も妙な具合にねじれていた。それだけじゃない。顔の皮がべろっと剥がれてた。びっくりしたね。剥がれた皮の下に別の顔があったんだ。まるでトカゲみたいな顔だった。鱗がびっしり生えていたし、まったくの話、あれは人間じゃなかったな。しばらくしたら警察じゃなくて、見たことのない制服を着た連中がやって来て、そいつを死体袋に入れて黒いバンに積み込んだ。説明もなしさ。なあ、いったいなにが始まってるんだ?
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2014年12月27日土曜日

Plan-B/ 種子

S2-E04
種子
 巨大なアンテナを使って深宇宙に電波を送ると未知の生命から返信があった。それはDNA情報だった。科学者たちは人間のDNAに未知のDNAを結合させて、新たな生物を作り出した。その外見は人間の若者と変わりがない。科学者たちはこの若者を使って様々な実験を繰り返したが、若者は研究所から脱走して若い女性を襲い始めた。相手の合意を得ないまま、そして避妊への配慮も感染症への配慮もないままに、短絡かつ自己中心的に残忍な犯行を繰り返したので全国に指名手配され、まもなく警察によって逮捕された。現在は足輪の装着を義務付けられ、居住地域を制限され、名前と顔がインターネットで公開されている。

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2014年12月26日金曜日

Plan-B/ 大地

S2-E03
大地
 揺れ動く大地が口を開いて底深い亀裂が現われた。黒髪族の若者は金髪族の娘の手を引いて勢いよく亀裂を飛び越えた。黒髪族の若者は黒髪族の男たちに追われていた。黒髪族の族長が金髪族の娘を求めていた。追っ手の一人が亀裂に呑まれた。彼方で火山の噴火が始まった。黒い煙が空を覆い、砕けた大地とともに恐竜たちが沈んでいく。黒髪族の若者は金髪族の娘を抱き締めた。やがて朝が訪れて、新しい時代が始まった。

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2014年12月25日木曜日

ミヒャエル・コールハース

ミヒャエル・コールハース
Michael Kohlhaas
2013年 フランス/ドイツ 122分
監督:アルノー・ドゥ・パリエール

馬商人ミシェル・コラースは売り物の馬を引いて市へ向かっていたが、途中で男爵の通行止めに出会って黒馬二頭を担保に取られ、引き取りにいくと馬はひどい状態になっていて、しかも馬の世話をするために置いていった雇い人は怪我を負っている、という有様だったので、ミシェル・コラースは男爵を相手に損害賠償の訴訟を起こすが、男爵が縁故を使って訴訟が棄却されるように仕組むので、ミシェル・コラースは王妃への直訴を考え、夫に代わって直訴におもむいた妻が負傷して死ぬと、ミシェル・コラースは男たちを集めて男爵の城に襲撃を加え、男爵が逃亡するとミシェル・コラースの一党は数をふくらませながら近隣に圧力を加えるので、聖職者がやって来て説教をして、王妃がとりなしをして訴訟が前に進み始めるとミシェル・コラースは配下を解散して家に戻り、裁判はミシェル・コラースの訴えを認める一方でミシェル・コラースの罪も認め、ミシェル・コラースは賠償を受けたのちに打ち首にされる。 
クライスト『ミヒャエル・コールハース』の映画化で、DVDのタイトルは『バトル・オブ・ライジング コールハースの戦い』。プロットはほぼ原作のままだが舞台はピレネー近辺のおそらくスペイン側に設定されていて(ダイアログはフランス語)、即興的なカメラと編集は一定のスタイルを保ってはいるが、相当な低予算なので、馬にまたがった少人数がもっぱら山の中をうろついている。ドイツ的な「現状」から引き離されたことで素材ややや正体不明になり、ルターの代わりに登場する聖職者はなんとなくルターが言いそうなことを言うものの、言うだけでなにもしないのでうざいだけだと言えなくもない。マッツ・ミケルセンのコールハースはさすがに見栄えがするし、出てくる馬はどれもこれも立派だし、それがいかにも標高の高そうな場所を移動する場面もなかなかの絵にはなっている。ただ、では面白いかと言えばやや微妙だと言わざるを得ないし、カメラがなにかというと娘役のメリュジーヌ・マヤンスに向きたがるのは意図があってというよりは、おそらく監督の雑念であろう。 



Tetsuya Sato

2014年12月24日水曜日

クリスマス・ストーリー

クリスマス・ストーリー
Un conte de Noel
2008年 フランス 150分
監督:アルノー・デプレシャン

染物工場を営むアベル・ヴュイヤールとその妻ジュノンのあいだには四人の子供があり、長男のジョゼフは白血病で幼くして死に、長女のエリザベートは劇作家として成功して数学者の夫とのあいだに十五歳になる息子があり、次男のアンリはなぜか役立たずとしてジュノンに嫌われ、またエリザベートから憎まれ、五年前の事件をきっかけに「追放」された状態にあり、三男のイヴァンは結婚して二人の幼い息子がいるが、その妻シルヴィアは結婚の選択に誤りがあったとどこかで感じている、という状況を背景に、ジュノンが貧血を感じて医者を訪れたところ、移植片対宿主病と診断され、治療のために骨髄移植が必要になり、適合するドナーがないことから家族にドナーを求めるついでにクリスマスに家族全員が実家につどい、つまらないことで意地を張ったり、孤独を感じたり、退屈したり、みんなでテレビの前に集まって『十戒』を見たりする。どこかの国の正月の風景そのまんま、と言えばわかりやすい。
それぞれに個性的な人物造形と俳優の演技は見ごたえがあり、説明的な要素は排除され、かわりにモノローグがときおり前に出て、視点は登場人物によって分散される。まったくドラマチックではないが、構築性の高い作品である。ジュノン役がカトリーヌ・ドヌーヴ、一家のもてあまし者アンリ役がマチュー・アマルリック。 





Tetsuya Sato

2014年12月23日火曜日

Plan-B/ 尖兵

S2-E02
尖兵
 夜半をだいぶ過ぎたころ、町の人々は強い揺れを感じて飛び起きた。窓のガラスが震えていた。警察や消防の電話が鳴り、急き切ったいくつもの声が、いまのはなにか、と問いかけた。なにかが空を横切っていくのをはっきりと見た、と言う者がいた。町のはずれの閉鎖された炭鉱になにかが落ちた、と言う者もいた。夜勤の無線係はパトロール中の警官を呼び出して炭鉱に送り、指令を受けた警官は現場に到着したという報告のあとで連絡を絶った。警察署長は町の警官に非常呼集をかけると炭鉱へ通じる道を閉鎖し、数人の警官を連れて出発した。しばらくしてから、あれはなんだ、と叫ぶ署長の声が無線の向こうからほとばしり、続いて数発の銃声が聞こえた。署長との連絡はそれで途絶えた。人々はパジャマ姿で恐怖を噛み締め、市長は町の重鎮を集めて協議を始めた。明け方には封鎖線にいる警官たちとも連絡を取ることができなくなった。そして朝日とともに、それが町に現われた。銀色に輝く紡錘形の物体が宙に浮かんで、音もなく囲い場に近づいて、白い光を周囲に放って納屋や牛を灰に変えた。紡錘形の物体が進んで白い光を浴びせると、学校も病院も灰になった。教会の尖塔がマッチの燃えカスのように崩れ落ちた。町の人々は逃げ出した。

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2014年12月22日月曜日

Plan-B/ 偵察

S2-E01
偵察
 戦闘車両の列がとまり、次々と開くハッチから化学防護服を着た兵士たちが銃を抱えて飛び出してきた。青々と草を生やした丘陵の向こうに白い壁を連ねた町が見えた。指揮官は分隊長を集めて衛星写真と航空偵察で得た写真を取り出した。これは極秘の作戦だった。指揮官が作戦の説明を始めた。およそ一週間にわたる偵察によって、町の住民に重大な異変が起こっていることが確認された。町の住民はすでに人間の姿をしていない。性別年齢を問わず、本来の肉体の半分か、またはそれ以上が機械化されていて、その外見からすると軍用を意図して改造がおこなわれた疑いがある。何者が、いかなる手段で、またいかなる目的でこれをおこなったのかは、まだ明らかにされていない。諸君の任務は町に侵入して、住民のサンプルを一体以上持ち帰ることだ。どのような抵抗があるか、予想できない。くれぐれも慎重を期してもらいたい。行動の時間だ。

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2014年12月21日日曜日

ベイマックス

ベイマックス
Big Hero 6
2014年 アメリカ 102分
監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ

サンフランソウキョウ、というちょっとめまいがしそうな名前の町で叔母と暮らしている14歳のヒロはいわゆる天才少年で違法なロボットバトルに参加して小遣い稼ぎをしていたが、ロボット工学の研究をしている兄のタダシに叱られてまじめに勉強するつもりになって、キャラハン教授に教わるために大学へ入ろうと考えて群体型ロボットを開発して発表会で披露したところ、その会場で火事と爆発が起こってタダシが死ぬことになり、強い喪失感を抱えて部屋にこもって立ち往生をしていると、そのかたわらでタダシが残したケア専門ロボット、ベイマックスがむくむくと立ち上がってヒロの心をいやすための方策を勝手に探し始め、探しにいった先でタダシの死に関わる陰謀の気配を見つけ出すので、ヒロはベイマックスを改造して戦闘機能を与え、タダシの友人たちの助けを得て陰謀の正体を暴きにかかる。 
プロットはいかにもMARVELという感じで、ヒーロー集団の誕生プロセスをいかなる破綻も受け入れない安定した形式で描いている。やたらとふわふわしているベイマックスがかわいいし、ヒーロー集団結成、というところで研究室から素材を持ち込んで必要な物は3Dプリンターでどんどん、という軽快さも楽しいが、視覚面での豊かさにとにかく感心した。人種的な特徴を生かしたキャラクターデザインがすごいし、東京とサンフランシスコを合体させたというサンフランソウキョウの景観には思わずわくわくさせられた。冒頭、俯瞰から路地裏へと入り込んでいく一連のショットにおける表現の細密ぶりがすさまじいし、それ以降、あらゆるカットに無数の実写的な雑音を見つけ出すことになる。いったい何をどうすればこうなるのか、漠然と眺めているだけのこちらにはさっぱりわからないが、驚いた、というよりも、恐ろしいと感じた、というのが正直な感想かもしれない。さりげないけれど、きわめて革新的な映画だと思う。 

Tetsuya Sato

2014年12月20日土曜日

Plan-B/ 百足

S1-E33
百足
 くだらない。

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Plan-B/ 沼

S1-E32
 博士は格別の創意も格別の主張も持ち合わせていなかった。人間を捕まえて実験台に拘束して、沼にいるなにかと掛け合わせれば、なにかができるはずだとただ漠然と考えていた。そして沼の近くに実験室がついた家を建てて、そこで誰かがやってくるのを待ち構えた。すると夫婦者の旅行者がやってくるので博士は妻のほうを捕らえて実験台に拘束し、妻の遺伝子と沼のなにかの遺伝子とを混ぜ、さらに沼のなにかの蛋白質を注入した。なにかができると博士は格別の考えもなしに餌のつもりで亀を与えた。

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2014年12月19日金曜日

Plan-B/ 鮫

S1-E31
 教授は人類の進化を人為的に促す必要があると主張していた。もし人類が鮫の特性を獲得して水中でも生存できるようになれば、将来の人口爆発にも食糧不足にも容易に耐えることができるだろうし、鮫の生命力と攻撃性を活用して水中兵士の軍団を作ることもできるだろう。政府は教授の主張の特に後半に注目して教授の実験室に資金を与えた。志願を強要された兵士が実験台に拘束され、教授は兵士の遺伝子と鮫の遺伝子とを混ぜ合わせ、鮫の蛋白質を注入した。兵士のからだを変異が襲った。失敗して怪物と化した兵士を教授は見世物小屋に売ろうとしたが、政府が出資をした時点で失敗作の怪物も政府の資産となっていた。政府は怪物を引き取って倉庫で保管し、保管期限に達すると国有財産から抹消して不要品として払い出し、入札で不要品の処分を引き受けた業者が海に捨てた。怪物を封印していたコンテナが海底に沈んで蓋を開き、解き放たれた怪物は隣国の海岸に上陸して善良な漁民の町に襲いかかった。

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2014年12月18日木曜日

Plan-B/ 蛇

S1-E30
 教授は人類の進化を人為的に促す必要があると主張していた。もし人類が蛇の特性を獲得して変温動物として行動することが可能になれば、将来の人口爆発にも食糧不足にも、そして地球環境の激変にも容易に耐えることができるだろう。教授は主張を単なる主張に留めてはいなかった。実践に乗り出して生体実験を繰り返した。学生をさらってきては実験台に拘束し、学生の遺伝子と蛇の遺伝子を混ぜ合わせ、蛇から抽出した蛋白質を注入した。学生のからだを変異が襲った。失敗して怪物と化した学生は端から見世物小屋に売り飛ばした。実験はことごとく失敗したが、教授には根拠のない確信があった。成功は間近いはずだった。だが問題は意外なところに潜んでいた。教授の助手をしている婚期を逃した教授の娘が実験台の学生に惚れた。救う機会はいくらでもあったはずなのに、婚期を逃した教授の娘は機会を逃し、実験は遂に成功して学生は面白くもない蛇に変身した。それを婚期を逃した教授の娘が解き放ち、巨大な蛇が教授に襲いかかる。教授は復讐を求める蛇の牙からからくも逃れ、かねてから用意していたマングースを鉄製の檻から解き放った。

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2014年12月17日水曜日

Plan-B/ 変異

S1-E29
変異
 教授は人類の進化を人為的に促す必要があると主張していた。もし人類が植物の特性を獲得して光合成だけで生存できるようになるならば、将来の人口爆発にも食糧不足にも容易に耐えることができるだろう。教授は主張を単なる主張に留めてはいなかった。実践に乗り出して生体実験を繰り返した。学生をさらってきては実験台に拘束し、学生の遺伝子とハエトリグサの遺伝子とを混ぜ合わせ、教授が開発した細胞核破壊光線発生器から細胞核破壊光線を浴びせかけた。学生のからだを変異が襲った。失敗して怪物と化した学生は端から見世物小屋に売り飛ばした。成功例はひとつもないので、犠牲になった学生はことごとくが見世物小屋の見世物になった。学生は見世物小屋でいじめにあって、檻を破って町へ逃れた。ホームレスを次々に襲って養分をたくわえ、復讐を果たすために教授の実験室に現われた。

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2014年12月16日火曜日

Plan-B/ 鰐

S1-E28
 若者は瀕死の重傷を負っていた。遠方から招かれた医師は若者の命を救うために恐るべき治療法を選択した。若者を実験台に拘束し、若者の遺伝子と鰐の遺伝子とを混ぜ合わせ、鰐の蛋白質を注入した。鰐の生命力が若者を救うはずだった。若者は奇跡的に回復した。日常生活に戻って恋をして、そして結婚した。しかし結婚した直後から急速に爬虫類化が進行する。恐怖に駆られた若者は新妻を捨てて実家に隠れ、実家の農場で差配をしている卑劣な男は夫を探して訪れてきた若者の妻に懸想する。若者の母親は差配を解雇し、遠方から招かれた医師は放射線の照射が若者を救うと考えた。放射性物質が運び込まれ、照射の準備が整った。若者は実験台に横たわり、そこへ解雇された差配が乱入する。制御装置が破壊され、致死量の放射線が若者を襲った。だが鰐の生命力が反撃する。すっかり怪物と化した若者は実験台から降り立って、愛する妻を救うために凶暴な差配に立ち向かった。

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2014年12月15日月曜日

Plan-B/ 道

S1-E27
 寝坊をした。少年は鞄を背負って学校へ通じる道を急いだ。そこの角を曲がれば学校が見える。あと少しだ、少年はそう考えていつもと同じ角を曲がった。道いっぱいになにか奇妙なものがうごめいていた。どれもがドッジボールのボールほどの大きさでしかなかったが、大きく開いた口に意地悪そうな牙を並べ、棘の生えた背中を丸めて二本足で歩いていた。少年は足をとめて考えた。帰ろうか。でも母親の小言が怖かった。学校のほうからチャイムの音が聞こえてきた。どうしよう。どう考えても母親の小言のほうが怖かった。少年は足を前に踏み出した。ゆっくりと、気づかれないように、ゆっくりと。

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2014年12月14日日曜日

Plan-B/ 蛸

S1-E26
 水爆の実験の影響で巨大な蛸が出現した。巨大な蛸は海軍の潜水艦に襲いかかり、海軍の駆逐艦にも襲いかかり、商船を沈め、漁船を沈め、遊泳中の一般市民を餌食にしながら次第に都市に近づいてきた。遂に蛸が上陸した。不気味な吸盤を連ねた長大な触手が橋をねじり、建物を壊し、逃げ惑う市民を押し潰す。阿鼻叫喚の騒ぎが凄まじく、だからこの蛸には脚が六本しかないということに遂に誰も気がつかない。

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2014年12月13日土曜日

Plan-B/ 戦場

S1-E25
戦場
 アメリカ合衆国陸軍の戦車隊の兵士たちは北アフリカの戦場でドイツ軍の捕虜になった。顔を煤だらけにしたドイツ兵はひどく怒っていて、兵士たちを手荒に扱った。彼らはトラックに追い上げられて、砂漠の奥の山岳地帯にある捕虜収容所へ運ばれた。そこにはすでに百人を超す連合軍捕虜がいて、脱走をたくらんで地下にトンネルを掘っていた。脱走決行の夜、いきなりサイレンが鳴り始めた。鉄条網の陰に伏せて見ていると、ドイツ兵が砂漠に向かって発砲を始めた。機銃の曳光弾が輝く線を夜空に刻んだ。連合軍が攻めてきたのか。あれを見ろ。捕虜の一人がそう叫んで指差した。裸の子供のようなものが群れになってサーチライトの光のなかに躍り出た。銃撃をものともしないで進んでくる。撃たれると弾かれたように舞い上がるが、地面に落ちると立ち上がって、何事もなかったように走り始める。ドイツ軍が乱射していた。ドイツ軍が叫んでいた。銃声が轟き、叫びが響き、それから銃声が消えて叫びも消えた。サーチライトが動かなくなった。あれを見ろ。捕虜の一人がそう叫んで指差した。裸の子供のようなものの群れがドイツ兵を運んでいく。獲物を見つけた蟻のように、一列になって次から次へとドイツ兵を運んでいく。行列は夜の闇に消えていった。しばらくするとミシンを動かすような音が聞こえてきた。あれを見ろ。捕虜の一人がそう叫んで指差した。夜空にくっきりと円盤が浮かんだ。それは猛烈な速さで空の彼方に消えていった。

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2014年12月12日金曜日

Plan-B/ 菌糸

S1-E24
菌糸
 壁を菌糸が伝っていた。男は壁に手を伸ばして、指の先で菌糸に触れた。軽くつまんで引き剥がすと、糸が伸びてすぐに切れた。白い菌糸のかけらが指先に残った。ところがすぐに見えなくなる。吸い込まれたように消えてなくなった。男は首を傾げて指先をこすった。翌日の朝、男は目覚めてすぐに、強い痒みを感じて目をこすった。指で触れると白いものがくっついてきた。目ヤニではない。男は洗面所に入って鏡に顔を近づけた。涙腺のあたりが白いもので埋まっている。指でつついてこそげ落とした。それから歯を磨こうとして口を開けて、鏡の前から飛びのいた。歯茎が白く染まっている。いや、得体の知れない白いものが網の目状に広がって歯茎を覆い尽くしている。これも指でこすってこそげ落とした。歯ブラシを取って、今度は指の先に痒みを感じた。見ると爪の下から白いものがはみ出している。爪の一つを指で押すと白い液体が前に飛んだ。男は恐怖を感じて鏡を見た。顔のあちらこちらに白い点が浮かんでいた。思わず見入っているうちに白い点から白い線が放射状に伸び始めた。男は声を上げようとして、声が出ないことに気がついた。舌がおかしい。指で触れると舌が崩れた。崩れ落ちる組織と一緒に白い糸がしたたった。それ以上、鏡を見ていることはできなかった。男はそこから逃げようとした。逃げようとして動けないことに気がついた。伸びた菌糸が根を張っていた。男は額を打ちつけて、目の前の鏡を粉々に砕いた。

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2014年12月11日木曜日

Plan-B/ 虫

S1-E23
 男の顔の皮膚の下でなにかが動いて、わずかに見える筋を残した。気にしないでください、と男は言った。別に害はありません。見ると男の手の甲でも皮膚の下でなにかがもぞもぞと動いている。気にしないでください、と男は言った。別に害はないのです。男の首のあたりでもなにかがひくひくと動いていた。気にしないでください、と男はいった。本当に害はないのですから。そう言う男の目のなかで、なにか黒いものが顔を出して、すぐに引っ込んだ。大丈夫です、と男は言った。気になさることはありません。気がつくと耳からもなにかが顔を出していた。やはり気になりますか、と男は言った。もちろん、気にしないではいられなかった。

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2014年12月10日水曜日

Plan-B/ 害獣

S1-E22
害獣
 その小さな小屋で農夫は一人で暮らしていた。石が転がる小さな畑で野菜を育て、痩せた山羊に草を食ませ、自分はわずかな物を食べ、自分で作った強い酒で終わりの見えない憂いを晴らした。その日も朝から働いた。水を運び、草を取り、山羊を餌場に連れていった。夜になると山羊を縄で小屋につなぎ、野良着のままで藁を詰めた布団に転がった。闇の向こうで音がした。山羊がおびえて啼いていた。農夫は起き上がってマッチを擦った。黄色い光に皺が刻まれた顔が浮かぶ。農夫はランプを取って火を灯した。土を固めた床にランプを置いて、古びた鉄砲を手に取った。音に耳を澄ませながら銃口に火薬を注ぎ入れ、送りを入れ、槊杖を取って送りを沈め、槊杖を抜いて弾を入れた。鉄砲を抱え、ランプを取ると立ち上がって外へ出た。星の明かりがざわついている。農夫は足音を忍ばせて小屋を回った。山羊が啼いた。手にしたランプを掲げてそれを見た。干からびた猿のような化け物が山羊に食らいついている。音を立てて血を吸っている。大きさは山羊とあまり変わらない。背中からヤマアラシのような棘が生えている。それが農夫を振り返った。大きな赤い目がぎらついた。農夫はすばやくランプを置くと鉄砲をかまえて引き金を引いた。弾はそれて化け物の頭上のどこかへ飛んだ。化け物はとがった牙を剥き出して叫び、いきなりぴょんと飛び上がると森のほうへ消えていった。

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2014年12月9日火曜日

『シンドローム』予約開始

『シンドローム』福音館書店(ボクラノSFシリーズ)、予約が始まりました。西村ツチカさんの挿絵がすごい仕上がりです。



Tetsuya Sato

2014年12月8日月曜日

Plan-B/ 影

S1-E21
 男は休暇を取って、妻と息子と一緒に海へ出かけた。海辺のホテルに部屋を取って新鮮なシーフードを並べた夕食を取り、翌日は早めに起きてボートを雇った。船長は釣りの穴場を知っていると請け合って、ボートを真っ直ぐに沖へ進めた。海が青い。船長がボートを停めると、男は借りてきた道具で釣りを始めた。釣りなど一度もしたことがなかった。竿の使い方がわからない。餌をどうするのかもわからない。なにもできない夫を妻がからかい、小さな息子が父親をかばう。男は船長に助けてもらって釣り糸を垂れた。待ってもなにもかからない。息子が舷側から身を乗り出した。言葉にならない声を上げて洋上の一点を指差した。妻が立ち上がって息を呑んだ。船長はブリッジへ飛んで双眼鏡を目に当てた。男は釣竿から手を放してそれを見た。巨大な黒い影が海面の下を進んでくる。形はオタマジャクシを思わせたが、大きさはボートの三倍に近い。それは音もなく近づいてきて、ボートの真下をくぐり抜けた。妻は息子を抱き寄せた。男は妻の肩を抱いた。それは大きな弧を描いて沖のどこかへ消えていった。なんだったのか、と男はたずねた。船長は肩をすくめて首を振った。

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2014年12月7日日曜日

Plan-B/ 触手

S1-E20
触手
 攻撃型原子力潜水艦が消息を絶った。最後に射出された救難ブイの信号を頼りに捜索機が洋上を飛び、潜水艦救難母艦が駆逐艦をしたがえて到着する。勇敢な男たちが潜水艇に乗り込んで、消えた潜水艦の手がかりを探した。二日後、潜水艦が見つかった。潜水艇のカメラが船体の様子を記録する。傷だらけになっていた。セイルが無残に潰されていた。駆逐艦には女性の海洋生物学者が乗っている。潜水艇が持ち帰った映像を見て彼女はある可能性を指摘する。将校たちは真に受けない。もちろん彼女にも確信はない。しかしそれは現われた。体長百メートルを超すダイオウイカが日没の間際に海面を破って現われて駆逐艦に襲いかかった。不気味な吸盤を連ねた長大な触手が船体にからみ、マストが倒れ、船が傾く。乗員が倒れ、戦闘指揮所で火花が飛ぶ。戦闘配置、と艦長が叫んだ。

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2014年12月6日土曜日

Plan-B/ 海底

S1-E19
海底
 深海五百メートルに設置された鉱物採掘基地で作業員が働いている。頑丈な作業用の潜水服で外に出て、交替サイクルの長さをぼやきながらチューブワームの森を抜けた。その先で見つかった岩盤でボーリング作業が進んでいる。岩盤の下に鉱脈があるのがわかっていた。だからボーリングで穴を開けて爆薬をしかけ、岩盤の表層を吹き飛ばして鉱脈を露出させる必要がある。爆薬をしかけた。作業員が退避する。爆発が起こって海底に煙がほとばしり、採掘基地の地震計が強い振動を記録した。煙の下で岩盤がゆっくりと崩れ落ちていく。揺れが静まり、煙が収まるのを待ってから作業員が近づいていく。洞窟が口を開けていた。洞窟がある、と作業員が報告する。おかしいな、と採掘基地の監督が言う。洞窟から泡が噴き出した。泡と一緒に巨大ななにかが飛び出した。それは棘の生えた甲殻類の腕を振って作業員を一撃で砕き、採掘基地に向かって突進した。

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2014年12月5日金曜日

Plan-B/ 崩落

S1-E18
崩落
 新しい高速鉄道のためのトンネルの掘削現場で事故が起こった。作業服の男たちが泥まみれになって逃げ出してきた。大規模な崩落があったという。レスキュー隊が到着する。担架を抱えてトンネルに入って、負傷した男たちを運び出した。血にまみれて、小声で痛みを訴えている。奥まで進めなかった、と隊員たちは悔しがった。崩落がまだ続いている、と蒼い顔で報告した。山が鳴動し、地震のような揺れが起こる。あれを見ろ、と誰かが叫ぶ。山を覆う木々が傾き、土砂とともに滑り落ちる。剥き出しになった山の肌が陥没する。土煙を破って巨大な怪物が現われた。装甲された頭を振り立てて雄叫びを上げ、凶暴な爪がそろった前足で山をさらに押し崩す。人々は一斉にカメラを出して写真を撮る。

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2014年12月4日木曜日

Plan-B/ 黄昏

S1-E17
黄昏
 夕焼けの向こうに太陽が隠れて、夜のとばりが町にかかった。人々は仕事を終わりにして家路につき、子供たちは親の声に呼び戻された。店では客に閉店を告げる。商店街では雷鳴のような音ととともにシャッターが次々に下ろされていく。道という道に人が溢れ、人と人の肩が触れ合い、家を目指す列が進んだ。人々は自分の家に駆けこんで窓を分厚いカーテンで覆った。あるいはクリーム色のシェードを下ろし、鎧戸を閉ざして掛け金をかけた。黄昏の最後のきらめきが空を貫き、日没の時間が訪れた。夜が現われて伸び上がるようにして空を覆った。そして闇が現われて、空に広がる暗雲のように地上を進んで光を隠した。闇はいかなる光も通さなかった。闇のなかにはなにかが潜み、光を憎み、隙さえあれば闇を伝って人間を襲った。人々は光に隠れて息をひそめた。

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2014年12月3日水曜日

Plan-B/ 溶解

S1-E16
溶解
 宇宙から帰還したカプセルが洋上に落下した。回収のために空母からヘリコプターが飛び立ち、カプセルを囲む特殊艇からダイバーが次々と海に飛び込んだ。ヘリコプターが上空に飛来してワイヤーを下ろし、その先端をダイバーたちがカプセルに結んだ。ヘリコプターがエンジンを吹かして波を掻き立て、しずくを垂らすカプセルが空中に浮かんだ。空母の広大な甲板では飛行計画の関係者が待ち受けている。カプセルが甲板に下ろされた。数人が走って密閉されたカプセルを開けた。ハッチから宇宙飛行士が現われた。様子がおかしい。よろよろとしている。甲板に足を置いて、崩れるようにへたり込んだ。恐ろしい呻き声が漏れてくる。一人が走ってヘルメットを外した。誰もがその有様に息を呑んだ。溶けていた。見守る人々の目の前で、宇宙飛行士が溶けていった。あとには汚物しか残らない。宇宙でなにがあったのか、語るべき口は残されていない。

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2014年12月2日火曜日

Plan-B/ 成分

S1-E14
成分
 少年が冷蔵庫のドアを開いてなかを覗いた。中段の棚に紙でできた円筒形の容器が半ダースも並んでいる。この新製品に両親は夢中だ。見るとひとつが倒れて、蓋がはずれて白い中身がこぼれている。少年はその白いペースト状の物体に目を凝らした。冷蔵庫を開けた瞬間に、それが動いているのを見たような気がした。少年は冷蔵庫のドアを閉めた。ひと呼吸置いてからまた開けた。それはかたまりになって波を打っていた。どうやら箱に戻ろうとしていた。見ている前で動きをとめた。見られていることに気がついている。たぶん、これは食べないほうが安全だ。少年はそう判断してドアを閉めた。

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2014年12月1日月曜日

Plan-B/ 囚人

S1-E15
囚人
 どうにも様子がおかしい、と同房の男は考えた。戻ってきてからこっちに背を向けて寝たままだ。声をかけても返事もしない。ときどき気味の悪い声で呻いている。ときどき引きつったような動きをする。気のせいかもしれないが肌つやが悪い。こいつ、こんなに太い腕をしていたか。こいつ、こんなに毛深かったか。毛がめらめらと動いている。腕や肩が膨らんでくる。シャツの背中が裂け始める。どうしたっておかしい。いや、おかしいなんてもんじゃない。これはやばい。看守を呼ぼう、と男は決めた。格子を掴んで叫び始めた。寝台の上の男が動いた。床に飛び降りて黄色い目を輝かせ、耳まで裂けた口を開いた。

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2014年11月30日日曜日

フューリー

フューリー
Fury
2014年 イギリス/中国/アメリカ 134分
監督・脚本:デヴィッド・エアー

1945年4月、ドイツ領内に移った西部戦線でドン・コリア―軍曹が指揮するシャーマン戦車はドイツ軍の反撃を受けて副操縦手を失って原隊に復帰し、そこで間違って戦車部隊に配属されたタイピストのノーマン二等兵を加えて前線に戻り、歩兵部隊に協力してドイツ軍の対戦車砲陣地を撃破して進路にある町に侵入し、小競り合いのあとで占領に成功して短い休息時間を過ごし、そこへドイツ軍反攻の知らせが届くのでコリア―軍曹はアメリカ軍支援部隊の側面を守るためにシャーマン戦車四両を指揮して前線を越え、そこでタイガー戦車と遭遇して友軍三両を失い、たった一両で指定された突出部に到達したところで今度は中隊規模の武装SSと遭遇する。 
映画史上、シャーマン戦車をもっとも美しく撮った映画だと思う(しかもAP、HE、WPと容赦なしに打ちまくる)。そしてこれも映画史上初めて本物のタイガー戦車が出演させて、これまでに映画に登場したたタイガー戦車との決定的なフォルムの違いを観客の前で明らかにする。本物は意外なまでにシャープなのである。そしてこのタイガー戦車対シャーマンの戦闘シーンはすばらしい仕上がりで、それに先だっておこなわれる歩兵部隊との共同作戦も戦術的に正確で心理的にも納得できる描写がすばらしい。プロット自体は古典的な戦争映画をなぞっているが、抑制された演出と戦場と戦闘行為の半端ではないむごたらしさとその結果として出現する終末観で戦争という世にもおぞましい災厄の普遍化に成功している。戦車、兵士、捕虜、民間人、避難民、いずれを取ってもディテールがすごい。 
Tetsuya Sato

2014年11月29日土曜日

Plan-B/ 箱

S1-E13
 工事現場のフェンスに裂け目があるのに子供たちが気がついた。習性として、裂け目があればそこにもぐり込まずにはいられない。子供たちは裂け目をくぐって工事現場に入っていった。週末なので森閑としている。あちらこちらにいろいろな物の山がある。砂利の山、セメントを詰めた袋の山、束になった鉄筋の山。子供たちは砂利の山に登って、山のうしろでそれを見つけた。スチール製の箱がある。正方形で、高さは子供たちとあまり変わらない。頑丈そうな枠がはまっていたが、表面は少し錆びていた。一人が蹴ると、ほかの子供も蹴り始めた。中からなにか、音が聞こえた。なにかが叫ぶような音が聞こえた。子供たちは顔を見合わせ、それから再び蹴り始めた。箱が動いた。軋むような音がした。それからものすごい音がして、箱の表面に突起が浮かんだ。またすごい音がして、突起の先に穴が開いた。なにかが中で叫んでいる。なにかが外に出ようとしている。子供たちは顔を見合わせ、それからそろって逃げ出した。

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2014年11月28日金曜日

Plan-B/ 島

S1-E10
 男は休暇を取って仲間と一緒に島へ出かけた。山のなかの小屋を借りてあたりを歩き、無人になった農場で仔馬ほどの大きさの巨大な鶏に遭遇する。巨大な鶏は凶暴で、人間を見ると襲いかかる。仲間の一人が突き殺された。男は仲間とともに森へ駆け込み、そこで鳩ほどの大きさの巨大な蜂に遭遇する。巨大な蜂は凶暴で、人間を見ると襲いかかる。仲間の一人が刺し殺された。男は仲間とともに小屋へ戻り、仔牛ほどの大きさの巨大なネズミの群れに囲まれる。巨大なネズミは凶暴で、人間を見ると襲いかかる。仲間の一人が食い殺された。自然界のバランスが崩れたのだ、と男は仲間に説明する。
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2014年11月27日木曜日

Plan-B/ 風

S1-E12
 山の奥からあふれた風が蒼ざめた空の下で渦を巻いた。梢を揺すり、青葉を散らし、白い道を駆け下りた。駐車場に並ぶ車を包み、休憩所の壁を撫で、開かれた窓からなかへ入って人間たちの息を奪った。ひとが手をとめ、足をとめた。声を出す者はない。息をする者もない。ただ佇んで、あるいは腰かけたまま、焦点を失った目を前に向けている。誰かの手からカップが落ちて、湯気の立つ液体が脚にかかった。誰かの手から財布が落ちて、硬貨が床に転がった。騒ぐ者はいない。あわてて腰を屈める者もいない。厨房から炎が噴き出した。からだが炎にあぶられる。しかし逃げ出す者は一人もない。

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2014年11月26日水曜日

Plan-B/ 蠕動

S1-E09
蠕動
 夜のあいだに訪れた嵐が電柱を傾け、電線も電話線も引きちぎった。外界へと通じる道は土砂でつぶされ、その小さな町は孤立した。町では対策本部を設けて被害を調べるために素人同然の職員を走らせ、途切れがちな緊急無線を使って隣の町に応援を頼んだ。しかし異変はすでに始まっていた。電柱から垂れた電線が地面に大量の電流を流し、その影響によって地中のミミズが凶暴化していた。凶暴化し、集団化し、しかも俊敏にもなったミミズは雨に濡れた地面から這い出して町の住民に襲いかかった。うかつな農夫はミミズの大群の前で足を滑らせてはらわたを食われ、藪に隠れて不純異性交遊に励む男女はミミズに囲まれて絶叫を放ち、浴室に入った娘はシャワーヘッドのあり得ないほど大きな穴から飛び出すミミズの雨に洗われた。次々と上がる悲鳴は次々に途絶え、町は墓場に変わっていく。
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2014年11月25日火曜日

Plan-B/ 光

S1-E08
 ペントハウスの広いテラスをバスローブをまとった娘が歩いていく。プールの縁に立ってバスローブを脱ぎ捨て、水着姿になると雲を映す水に飛び込んだ。腕を差して、力を込めて泳ぎ始める。しばらくしてから異様な気配を感じ取った。水をかいても、なぜか前に進めない。からだが妙な具合に浮かび上がる。空は曇っているのに妙に明るい。気がついたときには娘は光に包まれていた。逃れることはできなかった。光が放つ不自然な力で娘は水から引きずり出された。昇っていく。しずくを垂らしながらプールを見下ろし、ペントハウスのある建物を見下ろし、急速に遠ざかる町並みを見下ろし、悲鳴を上げながら光をたどって雲のあいだに消えていった。

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2014年11月24日月曜日

Plan-B/ 鳥

S1-E11
 乗客を満載した旅客機が宇宙から飛来した巨大な鳥に襲われた。乗客たちは窓から外を見て悲鳴を上げ、パイロットは怪物を振り払おうと急降下を試みる。鳥は醜悪な嘴を振り下ろして機体を砕き、旅客機は炎を噴き上げて空中に散った。地上から戦闘機の一群が飛び立った。急上昇して怪物を視認し、司令部はただちに攻撃を命じる。しかしミサイルも機銃も宇宙から飛来した巨大な鳥には効果がない。巨大な鳥は巨大な翼を振って戦闘機を端から叩き落とし、地上に向かって舞い降りていく。列車が襲われ、町が襲われ、都市は火に包まれる。まるで戦艦だ、と誰かが言う。まるで戦艦みたいな化け物だ、と兵士たちが口々に言う。軍は総力を結集する。相手は戦艦みたいな化け物だ、と司令部も言う。 

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2014年11月23日日曜日

インターステラー

インターステラー
Interstellar
2014年 アメリカ/イギリス 169分
監督:クリストファー・ノーラン

地球では環境が悪化して植物が死滅しつつあって、人類は遠からず酸素の供給を断たれて空腹を抱えて絶滅する運命にあって、すっかり貧乏になったアメリカで農業をしているクーパーは娘マーフが見つけた謎の手がかりから消滅したはずのNASAの施設にたどり着き、そこではNASAが十年も前から移住可能な惑星の探査を続けていて、地球上には次世代のための時間が残されていないと知らされたクーパーはそもそもNASAのパイロットであったことから最後の探査船の乗員に志願し、必ず帰ってくるとマーフに約束して旅立って木星の軌道付近からワームホールへ飛び込んで別銀河へ移動して、先遣隊が有望視したとされる惑星を目指して進んでいくが、期待した成果を得られないまま時間を無駄に費やすことになり、そのあいだに成長したマーフはNASAの物理学者になって移住計画の根本的な問題に気がつき、計画自体の秘密にも気がついて銀河のかなたに絶望を伝え、そのメッセージを見たクーパーは偶然に助けられて次元の階梯をのぼっていく。
劇中でしきりと繰り返されるディラン・トマスの詩がうざい。全体的な雰囲気はジェームズ・ティプトリーJr.の暗めの短編を星野之宣が大幅に肉付けして描いた漫画の映画化、という感じになるかと思う。つまり人間性に関する単細胞な洞察やむやみと情緒的な部分も含めて正統派のSFであり、宇宙探査と相対論的な時間の経過をこの規模で正攻法に扱った映画はたぶん珍しいと思うし、宇宙機のデザインなどもよくできているし、ワームホールやブラックホールの描写もいかにもという具合になっているし、異星の景観もきわめて地味ではあるがよくできているし、なによりロボットたちが有能でかわいらしい。3時間近い長尺ではあるが、構成上のバランスもよく取れていて、よどみも破綻もない、ということであれば、ここ数作のノーラン作品のなかではいちばん優れているということになるのではないだろうか。ただ、ことさらなメッセージ性は気になるし、そのメッセージの中身が『ダークナイト』終盤の悶着を拡大しただけ、ということになると少々わずらわしい。 マシュー・マコノヒーの父親役でジョン・リスゴーが、NASAの職員の役でウィリアム・ディベインが顔を出していて、これはちょっとうれしかった。


Tetsuya Sato

2014年11月22日土曜日

Plan-B/ 爪

S1-E07
 ペントハウスの広いテラスをバスローブをまとった男が歩いていく。ウィスキーが入ったグラスを手にしてプールに近づき、プールの脇のテーブルの上にグラスを置いた。バスローブのポケットに手を入れて、葉巻、ライター、カッター、サングラスを出してテーブルの上のグラスのまわりに並べていく。バスローブを脱いで軽く畳むと二つ並んだビーチチェアの一方にかけ、残る一方に身を横たえて葉巻を取って香りを嗅いだ。カッターを使って端を切り、口にくわえてからライターを取って葉巻の先端を念入りにあぶった。口からゆっくりと煙を吐く。グラスを取って琥珀色の液体を口にふくみ、グラスを置いてサングラスを手に取った。サングラスをかけて空を見上げて、奇妙な影に気がついた。巨大なものが太陽を背にして羽ばたいている。それは邪教の呪文で甦った翼ある蛇の神、ケツァルコアトル。常に太陽を背にして飛ぶので誰にも見られることはない。それは獲物に気がついた。凶暴な爪が舞い降りてきて、男をつかんで空の彼方へ運び去った。
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2014年11月21日金曜日

Plan-B/ 手

S1-E06
 ペントハウスの広いテラスをバスローブをまとった女が歩いていく。白ワインが入ったグラスを手に黒大理石を貼ったテラスを裸足で横切り、爪先をジャグジーに浸して湯の温度を確かめた。グラスをジャグジーの脇に置いてバスローブを脱ぎ捨て、泡の立つ湯にからだを滑らせるとグラスに向かって手を伸ばした。琥珀色に近い液体を口にふくんで目を閉じる。ヘリコプターの爆音が近づいてくる。グラスを置いてからだを伸ばした。ヘリコプターが近くにいる。銃声のような音も聞こえる。とてもうるさい。なにかが潰れる音を間近に聞いて目を開いた。テラスを囲むステンレス製の手すりが握りつぶされていた。毛むくじゃらの巨大な手が手すりを握りつぶしていた。女はからだを起こしてジャグジーから飛び出した。それと同時に手が動いた。ジャグジーをつかんで大理石の床から引き剥がした。女は振り返らずに走り続ける。ペントハウスに飛び込んで、そこで初めて息をもらした。

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2014年11月20日木曜日

Plan-B/ 羽音

S1-E04
羽音
 垂れかかる森の下で川が木漏れ日を浴びている。川辺に若い男女が現われた。二人は服を脱ぎ棄てて、冷たい水に入って悲鳴とも歓声ともつかない上げた。胸まで水に浸かって唇を重ね、肌を重ねた。男は唐突に水にもぐり、女は男を探して暗い水に目を這わせた。女が羽音を聞いて顔を上げる。黒いものがすばやく舞い下りてくるのを目で感じて、咄嗟に腕を上げて顔をかばう。焼けるような痛みが腕に走った。痛みが肩から頭に駆け抜けた。前腕が膨れ上がり、皮膚がめくれて血が流れ出し、女の口から絶叫があふれた。男が水面を破って現われた。笑みが消えて恐怖が浮かぶ。女の腕に蚊の拡大模型のようなものがとまっていた。それが羽音を立てて舞い上がった。一直線に近づいてくる。

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2014年11月19日水曜日

Plan-B/ 計画

S1-E01
計画
 宇宙人は地球の軌道に円盤を浮かべて地球人を監視していた。太古から、地上で起こるあらゆるできごとに目をとめて、細大漏らさず記録にとって、地球人を調べていた。地球人はそのことを知らない。気がついていない。まったく気がつく気配がない。宇宙人は怒り始めた。もしかしたら気がついていないのではなくて、無視しているのではあるまいか。気がついていないのならしかたがないが、無視しているのだとすれば許せない。地球人ごときに無視されて、我慢できるはずがない。ひとつ恐ろしい思いをさせてやろう。そう決心した宇宙人は人気のない墓場を訪れて、人目がないのをよく確かめてから死体を二つ甦らせた。
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2014年11月18日火曜日

Plan-B/ 死者

S1-E02
死者
 床に入って眠ろうとしていた。睡眠導入剤が効き始めて、頭のなかにぼんやりとした眠気を感じたところで枕元の携帯電話が振動した。電話を取ってモニターを見た。午前一時をまわっていた。電話の声が、彼が死んだとわたしに伝えた。長くはないと聞いていた。病院まで何度か見舞いにいったが、痩せ衰えて痛みに苦しむ様子が痛々しかった。雄弁でたくみにユーモアをあやつった男が痛みを耐えて言葉少なに話す様子が気の毒だった。しかし終わったのだ、とわたしは思った。電話を枕元に戻して眠ろうとした。妙な気配を不意に感じてドアのほうへ目を向けた。ドアの輪郭がかすかに見えた。ノブをまわす音がした。ドアを揺する音がした。来たんだな、とわたしは思った。

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2014年11月17日月曜日

Plan-B/ 渋滞

S1-E05
渋滞
 男はハンドルを叩いて毒づいた。進めない。この一時間で二十メートルも進んでいない。数珠つなぎになった車のせいで前が見えない。どちらの車線も町から逃げ出す車で埋まっている。歩くべきだった。歩いたほうが早かった。すぐ脇の歩道をパジャマ姿の男が歩いていた。光のない目をどこかに向けて、手を前に差し出して、冷えて固まった脚を動かして、どこかに向かって歩いていた。近づいてくる。男はハンドルを握り締めた。逃げ場を求めて助手席側のドアを見た。隣の車が邪魔で開けられない。グローブボックスを手探りする。武器などない。近づいてくる。汚れたパジャマ姿の死人が近づいてくる。光のない目でどこかをにらんで、固めたこぶしを窓に叩きつけてきた。死人の背後にも死人がいる。まだいる。まだまだいる。

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2014年11月16日日曜日

Plan-B/ 神々

S1-E03
神々
 月の光が丘を照らし、青白く輝く丘の向こうで排気音が轟いた。猛々しい音があたりに響き、震える空気が丘を下り、ふもとにうずくまる家々が瀟洒な窓を一斉に鳴らす。明かりが灯る。叫びが上がる。丘の上に警察の車両が現われた。旋回灯がきらめいている。警官たちが降り立って丘の向こうに銃を向けた。続けざまに発砲する。それが姿を現わした。改造バイクにまたがったバイカーたちが警官たちにのしかかる。巨大なバイクは車輪だけでも直径三メートルを超えている。警官が蟻のように弾き飛ばされ車が玩具のように押し潰される。エンジンが唸る。マフラーが吠える。神々のバイクが丘を下る。

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2014年11月15日土曜日

さらば、ベルリン

さらば、ベルリン
TheGoodGerman
2006年 アメリカ 108分
監督:スティーヴン・ソダーバーグ

1945年の夏、AP通信の記者ジェイク・ガイスマーはポツダム会談を取材するためにベルリンを訪れるが、どうやらジェイク・ガイスマーの本意はポツダム会談よりも旧知の女性レーナ・ブラントと旧交を温めることにある。そのレーナ・ブラントは荒廃したベルリンで生存のために選択をおこない、ジェイク・ガイスマーの運転手タリー伍長の情婦となり、ドイツからの脱出をたくらんでいる。ジェイク・ガイスマーは偶然によってレーナ・ブラントとの再会を果たすが、タリー伍長はレーナ・ブラントの国外脱出を不正な手段によって進めつつあり、タリー伍長が死体となって発見されると、ジェイク・ガイスマーの周囲にはアメリカ軍当局による陰謀が浮かび上がる。
ジョゼフ・キャノンの原作は未読だが、監督はプロットに格別の関心を払っていない。これはおそらくハードボイルド版の『ソラリス』であり、原作はあくまでもネタであって、主眼はどこかで見たようなスタイルをコラージュすることにある。映画の背景となるベルリンを映し出したモノクロの粗い映像はジンネマン『山河遥かなり』をどことなく思わせるし、そこを動き回るジョージ・クルーニーはハンフリー・ボガードのようであり、ケイト・ブランシェットの悪女ぶりはワイルダーの『情婦』に登場したディートリッヒを思い出させる。ケイト・ブランシェットのほうがやや強面に見えるのは、やはりご時勢であろう。演出はジョン・ヒューストンのようでもあり、ラオール・ウォルシュのようでもあり、マイケル・カーティスのようでもあり、一時期のフリッツ・ラングのようでもあり、ジョージ・クルーニーがいつまでも絆創膏のお世話になっているのは、もしかしたらポランスキーの『チャイナタウン』と関係があるのかもしれない。意識的にB級を気取っているのか、カメラワークは時としてまとまりを欠き、スクリーンプロセスもワイプ処理も古めかしい。同じソダーバーグのモノクロ作品であっても『Kafka』のようなクリアな映像は登場しない。いや、そもそもオープニングのワーナーブラザーズのロゴにしてからが、モノクロでくすんでいるのである。それでも突発的な暴力描写はあきらかに現代の作品に属するが、その暴力で使用される椅子の脚がいとも簡単に折れるのは使用の起源がどこにあるのかをことさらに明示するためであろう。ただ、この映画が『ソラリス』と大きく異なるのは、ソダーバーグが『ソラリス』において表現手法としてのSFに根本的に背を向けたのに対し、ここでは素材に対して忠実な姿勢を示している点にある。映画への意識の差を別にすれば、これはロドリゲス/タランティーノによる『グラインドハウス』に似ていなくもない。ということで、懐かしいものを懐かしむような気持ちから、つまり、やってるやってる、という感じで素朴に楽しんだのである。俳優について言えばトビー・マグワイアがとにかく印象的で、登場するやいなや、ジョージ・クルーニーを完全に食っていた。ケイト・ブランシェットも記憶に残る仕事をしており、これまでに見たなかではいちばん魅力的であった。




Tetsuya Sato