2013年12月28日土曜日

ミュンヘン

ミュンヘン
Munich
2005年 アメリカ 164分
監督:スティーブン・スピルバーグ

1972年の九月に「黒い九月」がミュンヘン・オリンピックの選手村を襲撃してイスラエルの選手、役員など11人を殺害し、イスラエルはその報復としてPLO、PFLP、「黒い九月」の関係者11人を殺害する計画を立案、モサドの工作員アフナーをリーダーとする五人の暗殺チームをヨーロッパに送り込む。
内容はジョージ・ジョナスの『標的は11人』におおむねしたがいながら、膨大な情報を巧みに刈り込んでよくまとまった映画に仕上げている。テンポは速く、場面転換は心地よく、2時間42分の上映時間はまったく長さを感じさせない。
エリック・バナ、ジェフリー・ラッシュをはじめ、イスラエル側の登場人物は実にみごとに70年代的な風貌を装い、特にエリック・バナはキブツ出身のイスラエルの若者という役をそれらしく演じることに成功している。細部にわたる時代色もさることながら、暗殺の舞台となるパリ、ローマ、アテネ、キプロス、ベイルートがそれぞれに異なる空気をまとっていたことは特筆すべきであろう。マルタ島ロケと思われるテルアビブもよくできていた。
映画は祖国イスラエルから切り離されてイスラエルの任務に殉じる暗殺チームが、その使命に巻き込まれることによって必然的にアウトサイダーとなることを強いられ、結果として祖国を喪失していく過程を少ない言葉で手際よく描写し、それと並行してミュンヘン事件の経過を全体に散らすことによって暴力の連鎖が現在に至るまで途切れなく続いていることを観客に知らせる。連鎖に関する表現はおそらくは必要以上に政治性を帯びたものとなり、ミュンヘン事件のクライマックスにアフナー夫妻の性行為がオーバーラップするあたりはいささか悪趣味にも感じられたし、ラストシーンでエリック・バナとジェフリー・ラッシュがかわす会話はマンハッタンを背景におこなわれ、ユダヤとイスラエルのきわめて個人的な決別が示されたあと、カメラは左にパンして彼方に立ち並ぶ国際貿易センタービルを映し出す。意外なまでのメッセージ性の強さにいくらか驚いたのは事実である。
それにしても劇中に登場する料理のおいしそうなこと。暗殺チームの食事に限って言えば、『標的は11人』では料理は当番制で、なんだかまずそうなものを食べていたと記憶している。ちなみにミッション遂行中に貯め込んだ給料10万ドルを最後にイスラエル政府に取り上げられた、という話は気の毒すぎるのか、映画には出てこなかった。



Tetsuya Sato