2013年8月17日土曜日

ワールド・ウォーZ

ワールド・ウォーZ
World War Z
2013年 アメリカ 116分
監督:マーク・フォースター

ゾンビ・パンデミックが起こって都市が次々に壊滅し、家族とともに洋上に逃れた元国連職員ジェリー・レーンは国連事務次長の要請で任務に復帰してワクチン開発のためにウィルス学者とともにC130に乗り込んで韓国へ飛び、手がかりを得られないままイスラエルに飛び、イスラエルでの騒動にヒントを見つけてウェールズにあるWHOへの研究所へ飛び、そこで思いついたヒントを実証するためにゾンビの目を盗んで足音を忍ばせる。 
序盤のフィラデルフィアからニューアークにいたる一連のシーンは迫力があるし、大西洋上の国連艦隊も悪くないし、エルサレムのシーンの力の入り方も半端ではないが、ヨンカーズの戦いもレデカー・プランもアリゾナの殲滅戦も登場しない。もちろん原作のあれがない、これがないというつもりはまったくないが、原作をひとかどの作品にしていた登場人物の無名性と多声性はブラッド・ピット扮する主人公とその家族という主軸を与えられたことで決定的に損なわれた。スピルバーグがすでに『宇宙戦争』でトム・クルーズをすんなりと無名性のなかに埋め込んでいるというのに、ここでは先祖がえりのような明瞭な輪郭が幅を利かせていて、あなたどこにいるの、コニーどこへいった、というアホウな台詞を我慢しなければならなくなっている。人間を徹底的に物質化した映像は先端的だが、映画はその映像を消化できずに終わっている。たとえば『コンテイジョン』を見本にする、といったようなことは誰も考えなかったのだろうか。
Tetsuya Sato