2013年3月22日金曜日

パンチドランク・ラブ

パンチドランク・ラブ
Punch-Drunk Love
2002年 アメリカ 95分
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン

バリー・イーガンは自動車修理工場の隣に倉庫を借りて会社を起こし、トイレが詰まったときに使う棒付き吸盤の改良型を作って売っている。真面目そうだが、妙に落ち着きがない。まともそうに見えなくもないが、どこかにいびつな雰囲気がある。早い話、いつも切れる寸前の状態にある。早朝、青いスーツを着込んで一人で出社し、仕事を始める代わりに食品会社に電話して懸賞についての疑問点を問い質す。そのうちにコーヒーマグを持って立ち上がって通りに出ると、そこで転がってくる車を目撃し、続いて壊れて捨てられたリードオルガンと対面する。おののきながら事務所へ戻ると一人の女がオレンジ色のドレスで現われ、バリーに車を託して立ち去っていくと、バリーはリードオルガンを回収して自分の部屋の机に載せ、鍵盤を押して音を出そうと試みる。
バリーには七人の姉があり、そのうちの一人が誕生日を迎えたので、バリーは姉の家を訪れて祝いに加わる。姉はいずれも騒々しくしゃべり、バリーを問い詰め、バリーを問い質すことをやめようとしないので、バリーは自身の自我に危機を感じて窓ガラスを割り、それから歯医者をしている義兄に泣いて相談を持ちかけるので、義兄は精神科医を紹介しようと約束する。バリーは帰宅の途上、食品会社の懸賞に応募するためにプリンを買い、帰宅すると、応募要項にしたがってバーコードを切り取っている。そうしているとセックス・ダイアルの広告に目が止まり、早速電話をしてみると、クレジットカードの番号、氏名、住所、電話番号、社会保証番号などを求められるので、個人情報が保護されることを確かめてから、そのすべてを先方に伝える。
翌朝、出勤前のバリーのところへ電話があって、セックス・ダイアルの女が個人情報を悪用してバリーに金を無心する。拒絶したバリーが会社へ出ると、そこには姉とともにオレンジ色のドレスの女リナ・レオナルドが現われ、姉は事務所の脇に積まれた大量のプリンを見つけてバリーを問い詰め、リードオルガンにも疑問を抱き、そこへセックス・ダイアルの女から金を無心する電話があり、バリーが再度拒絶するとセックス・ダイアルの女は戦争状態を宣言し、姉はバリーに怒りを抱き、リナはバリーをデートに誘う。
その夜、バリーはリナにプリンの秘密を説明し、バリーとリナは恋に落ち、バリーはリナを部屋まで送って帰宅する。だが、同じ頃、ユタ州某所に拠点を置くセックス・ダイアルの一味はバリーから金を奪うために四人の兄弟をロスアンゼルスへ派遣していた。バリーは金を奪われ、リナを追ってハワイに逃れ、激しい恋がバリーに力を与えるので、セックス・ダイアルの一味も降参するのである。
アダム・サンドラーがバリー・イーガンというひどくバランスの悪い善人を好演し、きわめて高いテンションを作り出している。実際、姉に追い詰められたバリー・イーガンの姿には、下手なサスペンス映画も裸足で逃げ出すほどの迫力があった。ポール・トーマス・アンダーソンの演出は例によってある種の韜晦を含んでいるが、バリー・イーガンの人物造形だけですでに十分なだけの悪趣味をおこなっているので、そこから先では意図的な破綻を回避している。つまりバランスの悪さは補われているわけで、だからこの大団円は健康的な感じがするのである。


Tetsuya Sato