2013年2月24日日曜日

ゼロ・ダーク・サーティ

ゼロ・ダーク・サーティ
Zero Dark Thirty
2012年 アメリカ 158分
監督:キャスリン・ビグロー

高卒でCIAにリクルートされたという女性分析官がパキスタンの支局に派遣されてオサマ・ビンラディンの追跡にあたり、捕虜を尋問し、推理をめぐらし、腰のすわらない上司を恫喝し、テロにねらわれ、テロによって同僚を失い、ようやく糸口をつかんでペシャワルに監視チームを送り出し、ついにビンラディンの隠れ家を探し当てるとそれからはワシントンで政治の重たい腰に苛立ち、それでもようやくシールズの部隊とともにアフガニスタンを訪れてステルスヘリコプターの発進を見送り、作戦終了後、部隊が持ち帰った死体を検分する。
無駄口をいっさい叩かずに強烈な158分を作り出したキャスリン・ビグローの手腕は確実に『ハート・ロッカー』を超えていて、自信に満ちた文体が自在に流れるありさまに、こちらはただもう口を開けて見入っていた。映像はリアリティと厚みを備え、物語性はほぼ排除され、視点は対象に距離を取って安易な感情移入を阻み、その結果としてほとんど一切が非人間的で鈍感な物理現象にからめ取られ、パキスタンの夜空を舞うステルスヘリコプターの雄姿はもっぱら不安のみをあおり、続くシールズの作戦は暴力的で、どうかすると滑稽で、人間の品位をおとしめるために作られた気味の悪い機械のように見えなくもない。驚くほどモダンで、ものすごい映画が誕生した。 


Tetsuya Sato