2013年2月14日木曜日

第十七捕虜収容所

第十七捕虜収容所
Stalag 17
1953年 アメリカ 119分
監督:ビリー・ワイルダー

1944年のクリスマス前。ドイツ軍の第17捕虜収容所にはソ連軍の女性兵士を含む連合軍捕虜あわせて4万が収容されており、そのなかのとあるキャンプにはアメリカ軍の軍曹ばかりが630人もまとめられている。つまり軍曹ばかりというバラックがいくつかあって、ある晩、そのうちの一つから二人の軍曹が脱走し、収容所を囲む森の手前で射殺される。軍曹たちは密告者の存在を予感し、収容所の所長は懲罰として脱走のあったバラックからストーブを取り上げ、クリスマスには全員にクリスマスツリーを贈るという話を撤回する。それから間もなくアメリカ軍の中尉がなぜか軍曹ばかりのバラックに送られてくるが、その中尉は護送の途中でサボタージュをおこなってドイツ軍に被害を与えているらしい。それを仲間内の話として囁くと収容所当局の耳にも入り、中尉はすぐさま連行されてしまうので、いよいよ密告者がいるようだという話になってくる。そして真っ先に疑いの目を向けられるのがセフトンという名の軍曹で、収容所に送られてきた日に荷物と靴を盗まれたことを根に持っているのか、黙々と商売に精を出していて、煙草を貨幣として流通させ、競馬をしきり、密造酒を売り、望遠鏡を製造してソ連軍女性兵士を煙草一本二十秒で覗かせるほか、ストッキングでドイツ軍兵士を買収するというようなこともやっていた。そのうえ、セフトンはどうやら士官学校のドロップアウトで、放り込まれてくる中尉とは同郷で、おまえが任官できたのは母親が金を積んだからだとか、まだ大佐になれないのかとか、ねちねちとしつこくからむのである。軍曹たちはセフトンを密告者であると決めつけてリンチを加え、やがてセフトンは本物の密告者を嗅ぎ当てて報復をおこなう機会を狙う。
ウィリアム・ホールデン扮するセフトンが少々ダークな役を演じているが、全体的な雰囲気はシットコムに近い。登場人物はいずれも明確なキャラクターを備えて期待を裏切らない行動を繰り返すし、場面に生彩を与えるためにアイデアが惜しげもなく使われている。多分に造形的な作品であり、その範囲ではそもそもが映画であるという嘘を前提にしている。リアリティがないというのではなくて、それらしさを重要視していて、そして成功しているということである。
バラックのなかの汚れ具合にまず目を奪われる。リアリズムなのか、下士官の捕虜だからなのか、それとも男所帯だからという設定からなのか、あるいはその全部なのかはよくわからないが、ひどく汚れている(一説によると忠実に再現されているらしい。ちなみに赤十字の視察が来るときには掃除をする)。そういうところでアメリカ軍の軍曹たちが淡々を日々を送りながら、いちおうクリスマス・パーティの準備は進めていて、ソ連軍の女兵士があっちのほうでシラミを取るために裸になって並んでいると聞くと、その裸が見えないことは知っていてもセフトンの望遠鏡の前に長蛇の列を作るのである。スープを運ぶバケツは洗濯桶と共用だし、洗濯用の水にはスープを使っているような気配がある(察するに薄いのであろう)。軍曹の一人は心が壊れているし、ハリウッドの女優に心を奪われている軍曹もいるし、アメリカ本国のクレジット会社から督促状を何通も受け取る軍曹もいる。ドイツ軍軍曹とのいかがわしい馴れ合いぶり、ドイツ軍兵士の奇妙な間抜けぶり、所長のしゃちほこ張った野心家ぶり、などもきっちりと描き込まれていて緩みがない。さすがはワイルダーだと思うのである。



Tetsuya Sato