2013年1月6日日曜日

現代アフリカの紛争と国家

現代アフリカの紛争と国家
―ポストコロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド
武内進一, 2009, 明石書店

現代アフリカにおける紛争および虐殺の主要な原因を民族対立にあるとする説明に疑義を提示し、その原因をおもに植民地支配以降における社会的変容に求めようとする研究で、著者は日本貿易振興機構アジア経済研究所アフリカ研究グループ長。事例として副題にあるようにルワンダが取り上げられ、ルワンダにおける19世紀までの王政の様子、その統治メカニズム、ベルギーの植民地支配がもたらした近代化によるエスニシティや社会慣行の法制化とそれによって引き起こされた諸問題、特にベルギー人の妄想じみた歴史的民族史観によってトゥチが支配階層に固定され、一方フトゥが被支配階層に固定された経緯、この支配民族、被支配民族という人工的な関係が独立に際して対立を生み出し、以降、内戦と虐殺にいたるまで延々ともめごとを垂れ流し続ける、というルワンダ固有の状況を、さまざまな先行研究を紹介しつつ、また著者自身による現地調査の豊富な成果を交えて分析しながら、現代史における国際政治環境を背景に置き、冷戦期間中のアメリカ、ソ連のアフリカへの介入、冷戦終了による資金流入の変化とそれにともなう家産制国家の立ち往生、アフリカ諸国に対して加えられた民主化圧力と構造調整による影響などを解説する。
多角的で膨大な情報を扱っているが、記述は平易でわかりやすく、また各章のおわりに必ず「まとめ」がついているのでわたしのようなうかつな読者でも頭を整理しながら読むことができる。ルワンダ・ジェノサイドに関する分析では1994年4月6日以降の中央政府の挙動(国連機関を含む)、地方政府の挙動、知識人を含む地元有力者の挙動、農村地帯の状況などがデータをもとに詳述されていて、扇情的な記述はまったくないにもかかわらず事件の様子がある種の迫真性を帯びて立ち上がり、読んでいるうちにかなり気分が悪くなった。現代アフリカの政治的構造を知るための好著であり、豊富な注、写真資料なども興味深い。そして小党が乱立して害しか与えないような民族主義の旗を振り、教育を受けたはずの人間がどう見ても人間のクズのようにふるまう、というあたりを眺めていると、家産制国家ではないものの、アフリカから遠く離れたどこかの国を見ているようで少しく気味が悪い。


Tetsuya Sato