2012年12月7日金曜日

ノーカントリー

ノーカントリー
No Country for Old Men
2007年 アメリカ 122分
監督・脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン

テキサスの片田舎で失業者の男が荒野へ狩りに出て、そこで関係者全滅状態の麻薬取引の現場に遭遇し、見つけた二百万ドルを持ち逃げするが、妙な親切心を起こしたせいで身元が割れ、組織の殺し屋に狙われる。組織の殺し屋は常識的な次元を超えたところで殺戮をおこない、その様子を遠くから眺めている老保安官は自分の時代の終焉を感じて引退を決意する。
トミー・リー・ジョーンズは老保安官を演じて説得力があり、ハビエル・バルデムの殺し屋は否定しがたい異常さを日常性に同居させている。ジョシュ・ブローリンもなかなかに印象的な演技を残していた。撮影は美しく、音の扱いはこまやかで、緊張は持続し、きわめて物質的な暴力がところどころで顔を出して人間の運命に非情な抑圧を加えていく描写は薄ら寒さを感じさせる。しかしコーエン兄弟は状況全般をあるがままに投げ出すのではなく、老保安官のモノローグを通してそこに一定の距離感を与えることで、観客にある視点を提示する。この視点が見たままなのか、それともたちの悪い冗談なのか、はっきりしないところに戸惑いを覚える。実はコーエン兄弟版『トラフィック』だった、てことはないだろうね?





Tetsuya Sato