2012年12月31日月曜日

もうひとりのシェイクスピア

もうひとりのシェイクスピア
Anonymous
2011年 イギリス/ドイツ/アメリカ 129分
監督:ローランド・エメリッヒ

16世紀末のロンドンで女王の側近ウィリアム・セシルとその息子ロバート・セシルが芝居を弾圧しているとイングランド王位継承の問題でセシル父子と対立するオックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアが書き溜めておいた芝居台本をベン・ジョンソンを通じて放出し、『ヘンリー五世』の公演がおおあたりして観客が作者を求めて声を上げると、匿名の作者に替わって俳優ウィリアム・シェイクスピアがいきなり名乗りを上げ、以降ベン・ジョンソンはオックスフォード伯の天才とシェイクスピアの盗人ぶりを間近に眺めて心を狂わせ、宮廷では王位継承問題をめぐってエセックス伯ロバート・デヴァルーとセシル父子が対立を深め、不本意ながらエセックス伯に与するオックスフォード伯は『リチャード三世』を使って群衆を扇動する。
『もうひとりのシェイクスピア』という邦題は意味不明。なぜ『アノニマス』のままでいけないのか。冒頭、デレク・ジャコビが現代の劇場に現われて前口上を述べ、それから舞台を越えてタイムスリップしていく様子はなかなかに楽しいが、この序盤から期待されるような構造的なまとまりはない。空間的に散らかっていくし、時間軸もばらけていく。つまり、おおむねにおいて大雑把な作りではあるものの、16世紀風俗のてんこもりは楽しいし、いかにもローランド・エメリッヒなスペクタクル描写、たとえば氷結したテムズ川で進行する女王の葬儀といった場面には思わず目を奪われたし、エドワード・ド・ヴィア シェイクスピア説に大幅な肉づけをおこなったジョン・オーロフの脚本はよくまとまっている。リス・エヴァンスのオックスフォード伯は風格があり、ヴァネッサ・レッドグレーヴはいくぶんカリカチュアされたエリザベス一世を楽しそうに演じている。そしてデヴィッド・シューリスのウィリアム・セシルがばつぐんにいい。ということで映画的にはまずまずというとこではあるが、楽しめるところがたくさんある作品に仕上がっている。「君に文体なんかない」とエドワード・ド・ヴィアに言われるベン・ジョンソンがかわいぞう。 


Tetsuya Sato