2012年12月4日火曜日

ロード・トゥ・パーディション

ロード・トゥ・パーディション
Road to Perdition
2002年 アメリカ 117分
監督:サム・メンデス

1931年のアメリカ。マイケル・サリヴァン(トム・ハンクス)は町のボス、ジョン・ルーニー(ポール・ニューマン)の下で汚い仕事をこなしていたが、家へ帰れば妻と二人の息子がいる厳格なカトリックの父親となる。冬のある日、マイケル・サリヴァンは息子たちとともにジョン・ルーニーの家へ出かける。そこではルーニー配下の男の葬儀がおこなわれているが、死んだ男の兄は弟の死のことでルーニーに怒りを抱いている。老齢のジョン・ルーニーはマイケル・サリヴァンに対して慈愛に満ちた父親のようにふるまい、サリヴァンもまた寡黙ながら良き息子のようにふるまう。そしてジョン・ルーニーの息子であるコナー(ダニエル・クレイグ)はその光景を見つめて笑みを浮かべ、笑みの下に激しい苛立ちを隠している。
難しい話ではない。コナーはへまをしでかして父親から叱責を受け、そのことからマイケル・サリヴァンを逆恨みするようになって、サリヴァンの家族に手をかける。妻と息子を殺されたマイケル・サリヴァンは生き延びた息子とともに町から逃れ、事実を知ったジョン・ルーニーは激しく心を乱されて息子をなじる。マイケル・サリヴァンは復讐のために組織を離れ、組織は殺し屋を放ってサリヴァンを追わせる。
ストーリーに何か新味があるわけではないし、登場人物や状況の作り方にひねりがあるわけではない。むしろ逆に、愚直なまでに古めかしくて凡庸な内容の映画である。ところがなぜだろうか、冒頭、少年が自転車をこいで出勤する労働者の群れに分け入っていくところから、ひどく胸が騒ぐのである。マイケル・サリヴァンが自分のために最初の殺人を犯す場面では、あまりの緊張感に吐き気を催していたのである。そしてサリヴァン親子の逃避行が始まり、ジョン・ルーニーと教会で会見するあたりから、涙が止まらなくなっていたのである。
なぜ泣いているのか、自分でもよくわからなかったが、しばらくしてから、これはあまりにも美しいものを見ているから泣いているのだと気づいた。恥ずかしい話だが、映画が終わるまでわたしはほとんど間断なく涙を流し続けて、劇場から出てきた後も、思い出したように目を濡らしていた。語られている話に意味があるのではない。その語り口に意味があるのだ。厚く塗られた絵が素晴らしい。光線が美しく交錯し、スクリーンには冬の空気がありありと映し出されている。それは雨の前触れの湿り気であり、あるいは春の前触れの温もりである。出演者の演技が素晴らしい。トム・ハンクスがこれほどの俳優であるとは、わたしは一度も考えなかった。日常の中で作り上げた父親という仮面の下から嗚咽がこみ上げてくる有様が、ゆっくりと進行する時間の中で、静かに明らかにされていくのである。ものすごい映画であった。




Tetsuya Sato