2012年12月30日日曜日

レ・ミゼラブル

レ・ミゼラブル
Les Misérables
1998年 イギリス 120分
監督:トム・フーパー

艤装を残したまま15度以上傾いている木造帆船(戦列艦?)を乾ドックに入れるのにドックの水を張らないで船体の下にころも入れずにただ人数を頼みにロープで引っ張る、という冒頭は採石場の代替イメージであるとしても、そのようなことをしたら竜骨が半永久的なダメージを受けるのではないか、とちょっと心配になったものの、ミュージカルの映画化作品としてはおそらく破格の仕上がりであり、歌うという行為を映画的なパースの中に確実に定着させている。そのために採用されたクローズアップの多用は視覚的な迫力をもたらしただけではなく、俳優の演技を間近に観察できるという楽しみを与えることに成功した。ジャン・ヴァルジャン役のヒュー・ジャックマンは宿命的な人物を演じるにはややモダンすぎるような気がしたが、ジャヴェール役のラッセル・クロウは不寛容の権化として現われて相当に見ごたえのある演技を残している。ファンテーヌ役のアン・ハサウェイの演技力、歌唱力には正直なところ驚かされた。主要登場人物を囲む若いキャストもみないい仕事をしていて、特にエボニーヌとガヴローシュは記憶に残る。終盤、共和主義者がバリケードの上に立って歌う場面はなんだか七月王政版のヴァルハラみたいで少々やり過ぎではないかという気もしないでもないが、どちらかと言えば直情型の素材を非常にうまく処理している、ということでこれは立派な映画なのだと思う。




Tetsuya Sato