2012年11月27日火曜日

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M - EINE STADT SUCHT EINEN MORDER
1931年 ドイツ 99分
監督:フリッツ・ラング

少女が殺害される事件が連続して起こり、町は恐怖に包まれ、警察の捜査は難航する。そして裏の社会も警察の広域捜査によって多大なる迷惑をこうむり、このままでは商売が立ち行かなくなると警戒したかれらは自衛のために立ち上がる。路上生活者を町の各所に配置して監視ネットワークを作り上げ、犯人を探し当てると廃虚の地下に拉致してきて犯罪社会の裁判にかける。
話は警察、犯罪社会、殺人犯の三つの軸で進行し、まず警察は情報を集め、証拠を募り、文字通りに藪を掻き分け、聞き込みと事情聴取を繰り返す。犯罪社会は無数の目によって路上を監視し、犯人の存在に気づくと手段を選ばずに追い詰めていく。そして犯人は自らの行為に困惑し、それでも内面の要求に抗うことができずにいる。悪が悪を追い詰めるという矛盾した図式の中でピーター・ローレ扮する殺人犯の造形はいやおうもなく際立つが、警官や犯罪者の造形も実に魅力的で、またここが肝心なところだが、全員が実にてきぱきと自分の仕事に励むのである。登場人物の知能指数が高くて、目的が明確で行為によどみがないところがいい。映画そのものについて言えば、不要な部分が何もない。サスペンス映像のスタイルをこの時点で確立しているというすごさももちろんあるわけだけど、それ以上に物語のコストパフォーマンスに注目したい傑作である。





Tetsuya Sato