2012年10月24日水曜日

アポロンの地獄

アポロンの地獄
Edipo Re
1967年 イタリア 104分
監督・脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ

ソポクレス『オイディプス王』の翻案。
テーバイの王ライオスが実子殺しを決意するまでは現代イタリアの田園風景が背景に使われ、羊飼いがオイディプスをけもののように棒にくくって運ぶ場面で荒涼とした砂漠が現われる。以降、コリントスもテーバイもイエメンの古い城塞都市でのロケとなるが、オイディプスがテーバイを追われると再び画面には現代の北イタリアが映しだされる。プロットはおおむねソポクレスに沿っているが、冒頭におけるライオス王の恐れはデルポイの神託によって与えられるものではなく、妻の愛を奪った赤ん坊の嫉妬心として描かれる。神託の円環構造が最初の段階ではずされてしまうのである。どうやら根本に無条件の父子の対立が置かれているような気配があって、だからであろうか、ライオス王の一行をオイディプスが殺戮する場面がやたらと長くてどたばたとしている。冒頭で神託をはずしたのであれば、オイディプスの選択からも神託による予言をはずすべきであったと思えるが、それをしなかったのは察するに展開が面倒になるからであろう。ただ放浪する、婚姻や裸体の女から目を背ける、という図式の上でスピンクスのあの問い掛け、つまりおまえの心の云々、という問い掛けが実現していれば、オイディプスの行動により人間的な影を投げかけることもできた筈だ。咀嚼の悪さと独りよがりがひどく目立つ。謎掛けが監督個人のリビドーに根差しているとするならば、そんなことで謎掛けをされる観客がたまらない。
巨木を一本すえただけの神託の場のデザインは面白い。ロケ地の選択や衣装のデザインには目を見張るものがある一方、撮影は全体に素人臭くてロケ地の選択や衣装のデザインを生かしていない。 


Tetsuya Sato