2012年10月31日水曜日

トロピック・サンダー

トロピック・サンダー
Tropic Thunder
2008年 アメリカ/ドイツ 107分
監督:ベン・スティラー

イギリス人の新人監督が俳優のわがままをまとめられない(という話を聞くと、わたしはマーロン・ブランド「主演」の『D.N.A.』を思い出すが)ためにベトナム戦争ものの映画の撮影が難航し、鬼のようなプロデューサーに脅された監督は無責任な原作者の入れ知恵にしたがい、ジャングルの無数のカメラを設置、そこへ俳優だけを放り出し、それでどうにかサバイバルな状況を作り出して無理矢理に演技をさせようとするが、開始間もなくフランス軍の古い地雷を踏んで監督は消滅、それをハリウッド製の特殊効果だと思い込んだ俳優たちは台本どおりにジャングルを歩き始めるものの、すでに黄金の三角地帯に踏み込んでいる。
ベン・スティラーが落ち目の状態からの起死回生をはかって最近はヒューマンドラマで知的障害者を演じたアクションスター、ジャック・ブラックが『ナッティ・プロフェッサー』をさらに下品にしたような(もちろんニューライン製作の)映画でおならをして笑いを取っているコカイン中毒のコメディアン、ロバート・ダウニーJr.は禁断の愛に目覚めた修道士の苦悩を描く(当然、フォックス・サーチライト製作の)映画でトビー・マグワイアと競演していたりするオスカー俳優、ニック・ノルティは嘘でいっぱいの原作者、禿で眼鏡で、ほとんど悪魔のようなプロデューサーがトム・クルーズ、ベン・スティラーのエージェントがマシュー・マコノヒー、というすごいキャスティングのコメディで、最後にはジョン・ヴォイトも顔を出し、気がつかなかったけれど、どこかにジェニファー・ラヴ・ヒューイットも出ていたらしい。
戦争映画の撮影では冒頭からどこかで見たようなシーンがやまほども登場し、麻薬組織に捕まったベン・スティラーはオスカー級の知的障害者演技を強要されておのれを失い、みんなで一緒に助けにいくと、麻薬組織の喝采を浴びて事実上のカーツ大佐と化している。しかも、その状態から救い出すために説得をすると、説得しているロバート・ダウニーJr.のほうが、そもそもややこしい役作りをしている関係もあって、おれは誰だという話になる場面は最高に笑えた。麻薬組織のボスがブランドン・スー・フーという子役で、これがまたよろしい。俳優の監督が俳優のフラストレーションをそのまま叩きつけたような妙な映画だが、非常によく出来ていると思う。 






Tetsuya Sato