2012年10月27日土曜日

イングロリアス・バスターズ

イングロリアス・バスターズ
Inglourious Basterds
2009年 アメリカ/ドイツ 153分
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ

ドイツ占領下のフランスでユダヤハンターの異名を取るSSのハンス・ランダ大佐は農家の床下にひそむユダヤ人の一家を殺戮し、アメリカ軍のアルド・レイン中尉はユダヤ系の兵士とともに民間人の姿でフランスに潜入してドイツ兵を次から次へと血祭りにあげ、恐怖におびえるドイツ兵の声はヒトラーに耳にも届き、それから数年を経てすでに連合軍がフランスに上陸したころ、ハンス・ランダ大佐の手から逃れたユダヤ人の娘ショシャナ・ドレフュスは名前を変えてパリで映画館の持ち主となり、そのショシャナ・ドレフュスに関心を抱いたドイツ兵の説得でヨゼフ・ゲッペルスは戦意高揚映画『国民の誇り』のプレミアをショシャナ・ドレフュスの映画館でおこなうことに決め、プレミアにはドイツ政府高官がそろうことを知ったショシャナ・ドレフュスは映画館ごと第三帝国の中枢を抹殺しようとたくらみ、まったく同じことを考えたイギリス軍はドイツ語に堪能な将校をアルド・レイン中尉のもとへ送り込んで作戦を進め、ところが問題が発生したせいでまったくドイツ語が話せないアルド・レイン中尉自らが映画館へ乗り込むことになったため、ドイツ人はイタリア語を話せないという入れ知恵を受けて中尉はイタリア人という設定を選択するが、中尉の前に現れたハンス・ランダ大佐は英語に加えてイタリア語にも堪能なので間もなく正体を暴かれるものの、大佐には大佐なりの思惑があり、それはそれとしてショシャナ・ドレフュスの計画はすでに自動的に進行している。
全体は五部構成で、シチュエーションとしては『特攻大作戦』に似ていなくもないが、乱雑な話の散り方からするとやはりマカロニ系の戦争映画の構成に近く、そしてかなりの部分がタランティーノ的なダイアログで占められている。
ダイアログはおおむねよどみがないし、いろいろと作り込まれてはいるものの、不要に長いという印象は例によって否めない。こちらとしてはもう少し台詞を削って、そのかわりにイングロリアス・バスターズの非道な活躍を見せてほしかったような気がしないでもないが、これはやはり戦争映画というフレームを借りたタランティーノ映画なので、そういうことにはならないのであろう。そしてタランティーノ映画としては、かなりおもしろかったということは認めなければならないであろう。バットを握ってばかをやるイーライ・ロスをはじめとして出演者が充実した仕事をしている。ハンス・ランダ大佐を演じたクリストフ・ヴァルツ、ショシャナ・ドレフュスを演じたメラニー・ロランはタランティーノのあからさまな演出もあって記憶に残る。ただ全体を五部構成に見せるという仕組みにどの程度効果があったかは疑わしい。不要な冗長性を糊塗するためのからくりなのではあるまいか。なお劇中映画『国民の誇り』は1944年ごろのドイツ製戦意高揚映画とは思えないモダンなショットで埋まっていて、あまり本物らしくない。




Tetsuya Sato