2012年10月22日月曜日

ごった煮

エミール・ゾラ『ごった煮』(小田光雄訳、論創社)

『ボヌール・デ・ダム百貨店』の社長オクターヴ・ムーレの修業時代の話である。とはいえ内容はとあるブルジョア向けアパルトマンを舞台にそれぞれのフロアでそれぞれの家族の人生模様がそれぞれにはしたなく展開するという形式で、正体はかなりコケティッシュなコメディになっている。キャラクターはどれも立ちまくりで、なかでも娘の結婚のためならば手段を選ばずに居直りまくるジョスラン夫人は相当にすごい。そして建物の表側で紳士淑女が金や下半身の問題で夜ごとに頭を虚ろにすれば、中庭の側では女中や召使いが浅ましい罵りあいを朝ごとに繰り返す有様が執拗に描かれ、コーラス付きの華やかな夜会の背後では暗がりに隠れて嬰児殺しがおこなわれている。ゾラの容赦ない流儀によってブルジョアが滅亡していくのである。それにしても状況の大半を一つの建物の上から下までにぎっしりと詰め込み、けっこうな数の登場人物を破綻もさせず、無駄遣いもせずに、効率的に処理していく知力と体力はたいへんなものであろう。

ごった煮 (ルーゴン・マッカール叢書)
Tetsuya Sato