2012年10月21日日曜日

貴婦人たちお幸せに

貴婦人たちお幸せに(1943)
Au Bonheur des Dames
監督:アンドレ・カイヤット

19世紀中葉のフランス。両親の死後、ドニーズは二人の弟を連れてパリに住む叔父ボーデュを訪れる。ボーデュは婦人向けの服地の店を営んでいたが、向かいに出現した巨大な百貨店ボヌール・デ・ダムによって商売を圧迫されていた。ドニーズは生活のためにボヌール・デ・ダムの売り子となり、辣腕経営者ムーレは店舗拡張の資金をデフォルジュ夫人に求め、デフォルジュ夫人がムーレとの逢引を求めると、ムーレはいつの間にかドニーズに惹かれていて、それを嫉妬したデフォルジュ夫人がドニーズの解雇を画策すると、ムーレの気持ちが動かないのでデフォルジュ夫人のたくらみは潰え、さらにちょっとした男女関係の勘違いがあったあとでムーレとドニーズが結ばれる。そしてそういうことが起こっているあいだに叔父ボーデュの店はいよいよ傾き、番頭は逃げ出し、娘は死に、店は差し押さえにあって、ボーデュは馬車に潰される。
エミール・ゾラの『ボヌール・デ・ダム百貨店』の映画化である。ドイツ占領下のフランスという特殊な状況で製作されていて、おそらく暗い雰囲気を避けるためであろう、貧しいはずの売り子がプライベートでプチブルのような服を着ているし、従業員の宴会はまるで舞踏会のように壮麗に描かれている。1930年のデュビビエ版のリメイクだというが、そのデュビビエのほうはまだ見る機会に恵まれていない。大部の原作を90分足らずに圧縮したジェットコースター・ムービーだが、原作のプロットにはおおむね忠実に見える。とはいえプロットを消化するのに精一杯で、ゾラが膨大な言葉を尽くして描き出した初期大量消費社会の姿を再現するには至っていない。それをするには倍の上映時間が必要であろう。むしろ、上映時間の割りにはよく押し込んでいると言うべきで、百貨店の出勤風景、帳場、さまざまな客、万引き、食堂、売り子の張り合い、住み込みの部屋、従業員用食堂などの場面が実にテンポよく登場する。特に従業員用の食堂は原作のイメージどおりであった。ミシェル・シモン(ボーデュ)はつまりミシェル・シモンだが、アルベール・プレジャン(ムーレ)、ブランシェット・ブリュノワ(ドニーズ)は魅力がない。とにかく駆け足の内容なので、鑑賞に先立って原作を読むことをお勧めする。

貴婦人たちお幸せに【字幕版】 [VHS]
Tetsuya Sato