2012年10月16日火曜日

トロツキー『裏切られた革命』

トロツキー『裏切られた革命』 翻訳:藤井一行(岩波文庫)

1937年に刊行された、トロツキーによる言わば憤激の書。
大半はスターリンを首班とする当時のソビエト政権の誤りを指摘することに向けられているが、いろいろと参考になるのは、富農撲滅に対してトロツキーは一定の留保を持っているらしいこと、いわゆる産業党事件に代表されるような技術者サボタージュについても、まったくの捏造であるとは考えていないこと、大粛清の過程にあっては青年層に反対派的(スターリン政権に対する)分子が存在し、地下活動をおこなっていると確信していること、などである。最後の点についてはどのような根拠でそう言っているのかがわからなかった(とはいえ、根拠があっても書くことはできなかったと思うのだが)。
しかしなんと言ってもこの本を読み応えのあるものにしているのはトロツキーが駆使している非難のレトリックであろう。つまりレーニンの「正統主義」から逸脱し、「官僚主義」を持ち込んで「革命を裏切った」「無教養な」「町人階級出身者ども」に対する非難、嫌味、あてこすり、揚げ足取り、などが豊富に盛り込まれていて、これはほんとうに参考になる。参考になるからと言って、扱っている背景が背景なので、こちらで使えるものでもないけれど。ちなみにトロツキーによればロシア革命後の失敗は、主としてロシアという国の貧困と無知にあったのだそうである。革命をする前からそれはわかっていたけれど、ロシアで革命が起これば西欧社会、特にドイツでも革命が起こり、世界革命へと発展していく筈だった(そしてスターリンですらそれは疑っていなかった)ので、ドイツ社会民主党がワイマール共和国に潜り込んでぬくぬくとしていたことには本当に裏切られたと感じたようなのである。そうなると信じていた根拠がいったいどこにあったのか、ちょっと興味がある。 

裏切られた革命 (岩波文庫)
Tetsuya Sato