2012年10月11日木曜日

爆走機関車 シベリア・デッドヒート

爆走機関車 シベリア・デッドヒート
Kray
2010年 ロシア 124分
監督:アレクセイ・ウチテル

1945年9月、シベリアのクレイという、どうやら流刑地になっている村にイグナトという男が現われ、これがもともと機関士だったのが発作を起こして機関士の資格を剥奪されていて、それでも村に一台だけの機関車の機関士に任用されて、加えてそれまで機関士であったステパンの女ソフィアをものにし、機関車に乗り込むと、このほとんど50キロほどしか出ないこの機関車の限界に挑戦し、合流地点の手前の複線区間で機関士サルキシャンが運転する機関車と言わばチキンゲームに挑むので、この流刑地というのか村というのか独立森林伐採地点というのか、よくわからないけれど、その所長のコリヴァノフの怒りを買って機関助手に格下げされ、それが気に入らないイグナトは川のなかの島に機関車が一台放置されているという話を聞きこむと、壊れた鉄橋の向こうにある島に渡って機関車を発見し、1941年の5月以来、チェキストに追われてたったひとりでそこに潜んでいたドイツ人エルザも発見し、そもそも技師であったエルザの助けを得て機関車を動かし、壊れた鉄橋にレールを渡して橋脚をこしらえ、エルザとともに川を渡って村へ戻るが、村の者はドイツ人エルザをファシストとののしり、そもそも戦争があったことを知らないエルザはそのことでとまどい、ドイツ女を連れてきたことでイグナトは孤立し、ソフィアはエルザに嫉妬し、エルザはイグナトに愛を抱き、ステパンは愛を求めてソフィアに近づき、つまりロシア的な悲哀をみんなで抱えているところへ、かつてエルザの家族を殺害してエルザを森へ追い込んだチェキストが村へ現われてエルザとソフィアがドイツから連れ帰った子供を人民の敵として捕らえ、貨車に押し込んで連れ去ろうとするので、機関士サルキシャンは機関車の運転を拒んで機関車から降り、そもそも鉄道員の子であったチェキストは自ら運転台に立って機関車を走らせ、イグナトは自分の機関車でチェキストを追い、合流地点の手前の複線区間で言わばチキンゲームを開始する。
全編にわたって移動手段は機関車だけ、秋口から冬を迎えるシベリアの風景を背景に古色蒼然とした機関車が走る様子は風情があり、それをまたクマがちょこんと腰を下ろして眺めているなどというすばらしいショットも加えられ、バラック、浴場、森林伐採場などの美術もよくできているし、そこで右往左往する男女のウェザリングぶりがまたすばらしい。とにかく汚くて卑猥で、生活感にあふれていて、乱暴で貧乏くさいのである。やや説明的な話法に難点があるものの、雰囲気は抜群で、演出はパワーがある。見ごたえは十分であった。 


Tetsuya Sato