2012年9月30日日曜日

アイアン・スカイ

アイアン・スカイ
Iron Sky
2012年 フィンランド/ドイツ/オーストラリア 93分
監督:ティモ・ヴオレンソラ

選挙を間近に控えたアメリカ合衆国大統領は人気取りのために黒人ジェームズ・ワシントンを月面に送り、月面に送られたジェームズ・ワシントンは月の裏側にひそんで地球侵攻の機会を虎視眈々と狙っていたナチに捕獲され、劣等人種であるということでアーリア化され、そのジェームズ・ワシントンが携えていたスマートフォンが月の裏側のナチの究極兵器『神々の黄昏』号の起動を可能にした、ということで月の裏側のナチで次期総統の地位を狙うクラウス・アドラーはスマートフォンをいっぱい手に入れるためにジェームズ・ワシントンをしたがえて地球を訪れ、ニューヨーク郊外に着陸してマリファナを栽培しているお百姓の銃撃を受け、いつの間にかナチ円盤に乗り込んでいたクラウス・アドラーの婚約者レナーテ・リヒターとともにフォルクスワーゲンのバスを黒人から奪って大統領への接近を試み、大統領の私的広報係をさらってレナーテ・リヒターがいわゆる国家社会主義の宣伝をおこなったところ、これは使えるということでクラウス・アドラーとレナーテ・リヒターは大統領選の道具になり、なにやらすっかり現代アメリカになじんだレナーテ・リヒターは白人のホームレスと化したジェームズ・ワシントンとの再会を果たし、あきらかに任務を放棄しているクラウス・アドラーの前にはウド・キア扮するところの月の裏側のナチの総統コーツフライシュが現われ、コーツフライシュから総統の地位を奪ったクラウス・アドラーは地球への総攻撃を命令し、みずからはiPadを携えて月の裏側に戻って『神々の黄昏』号の起動にかかり、国家社会主義の迷妄から解放されたレナーテ・リヒターもまたジェームズ・ワシントンとともに月の裏側に戻って『神々の黄昏』号の起動を阻止しようとたくらみ、そうするあいだに各国がそれぞれ秘密裡に準備していた地球艦隊は月の裏側のナチの艦隊との戦闘に突入する。
『スターレック 皇帝の侵略』に比べると破格のスケールで、脚本は変わらずにゆきあたりばったりではあるものの、演出に関してはいちおうの前進を見ることができる。つまり、あいかわらず野暮ったいところは野暮ったいものの、仕上がりはそれなりに洗練されているし、月の裏側のナチの美術面における造形は破格であると言ってもいい。とにかく手間はかかっているのである。というわけで期待半分ほどで鑑賞したところ、期待はよいほうへ裏切られた。ただ、ウド・キアにはもう少し変なことをしてほしかった、という気がしないでもないし、結末にいたって出現するペシミズムはこの題材としてはたぶんストレート過ぎるのではあるまいか。 


Tetsuya Sato